ベトナムの会計基準や監査、税務のポイントを分かりやすく解説
ベトナムで事業を展開するなら、会計基準や監査、税務の仕組みを正しく理解することが重要です。ベトナムの会計・税務は、日本とは制度やルールが異なる部分が多く、誤解したまま事業を始めると、思わぬリスクにつながる可能性があります。
この記事では、ベトナムの会計・税務の特徴や知っておきたいポイントを分かりやすく解説します。
ベトナム会計基準(VAS)とは
ベトナム会計基準(VAS)とは、政府が定めた26の会計基準から成る体系で、企業はこれを遵守して財務諸表を作成する義務があります。※1
2001年から2005年にかけて準備されたVASは、当時の国際財務報告基準(IFRS)を条文レベルで取り入れながらも、実務運用を統一するために独自の細則が付与されており、IASに依拠したものである一方、詳細な仕訳例や帳簿様式が含まれる点が特徴です。
勘定科目表が政府により統一されており(Circular 200/2014/TT-BTC 等)、全企業が共通のコード体系を用いるため、企業間・期間間の財務比較がしやすい構造になっています。※1
VASはIFRSとのコンバージェンスが進められていますが、固定資産の減損・金融商品会計・従業員給付などの基準はまだ未整備であり、差異としての意識が求められます。※2
2022〜2025年はIFRSの任意適用期間であり、2026年以降、強制適用へ移行するロードマップが存在します。※3
ベトナムと日本の会計制度の違い

ベトナムの会計制度は「ベトナム会計基準(VAS)」を中心とした独自の体系であり、日本のように複数の会計基準を選べるわけではありません。
また、IFRSに近づく取り組みが進められていますが、現時点では原価主義が主流です。
続いては、ベトナムと日本の会計制度の違いについて、具体的なポイントを紹介します。
会計期間は原則1月1日から12月31日まで
ベトナムでは、会計年度の原則は1月1日から12月31日までです。
しかし、例えば4月1日から翌年3月31日など、四半期末(3・6・9月)を期末とする12ヶ月会計年度の設定も可能で、柔軟性がある点が特徴です。※4
また帳簿保存義務の期間は、日本では7年または10年ですが、ベトナムでは5年・10年、さらには「永久保存」とされる文書もあるとされており、保存要件がより広範囲となっています。※5
勘定科目表に基づく記帳
日本では各社が業種や業態に合わせて勘定科目を自由に定められますが、ベトナムでは財務省が指定した統一の勘定科目表(勘定コード表)の使用が法で定められています。
全企業が共通の勘定コードを使うため、企業間の財務比較は容易です。
例えば、売上は「511」、直接材料費は「621」、直接人件費は「622」、そして結果的な損益は「911」といった具合に番号体系が設定されています。
さらに、「ベトナム会計システム」として、仕訳例・帳簿様式・財務諸表のフォーマットなどが包括的に提供され、会計実務の具体的指針となっています。※6
株主資本等変動計算書は不要
日本の財務報告では、B/S(貸借対照表)、P/L(損益計算書)、キャッシュフロー計算書および株主資本等変動計算書が主要様式となりますが、ベトナムでは株主資本等変動計算書の作成義務はありません。※2
財務諸表の構成は、日本より簡略化されているのが特徴です。
ただし注記や監査報告書は必要で、外資系企業には「会計主任(チーフアカウンタント)」の設置が義務付けられており、外部の会計事務所への委託も認められています。
損益計算書の独自表示
ベトナムのVASに基づく損益計算書では、日本のように営業利益・経常利益といった分類を行わず、「営業利益」に金融収益や金融費用を含めた表示が一般的です。
金融項目と事業項目を分離せず、本業と金融活動を包括的に評価する方式※2のため、日本の会計基準で作成された損益計算書とは構造が大きく異なります。
そのため、ベトナムの財務諸表を日本向けに統合する際には、項目の再分類・再編が必要です。
多くの日系企業が、現地の会計事務所やベトナム会計に対応した日本の会計事務所に、IFRS や JGAAP に基づく再調整業務を依頼しています。
土地使用権の償却処理
ベトナムでは外資系企業に土地の所有権が認められていないため、「土地使用権」として扱われます。
土地使用権は「長期前払費用」として資産計上され、定められた耐用年数に応じて償却されるのが特徴です。※2
有形固定資産の減価償却
IFRSや日本基準とは違い、VASには減損会計の明確な規定がありません。
減損会計が存在しないため、減価償却済資産であっても評価損を計上する制度はなく、原価主義に基づく継続評価が行われる点が特徴です。※1
そのため、資産の実態を財務諸表に反映させたい場合には、IFRSやJGAAPへの組み替えが求められます。
ベトナムの監査制度について
ベトナムでは、外資系企業や一定規模以上の企業に対し、毎年ベトナム公認会計士(CPA)による会計監査が義務付けられています。※4
監査報告書は法人税確定申告書に添付して税務当局へ提出しなければならず、これを怠ると、申告が受理されないまたは追徴課税を求められるリスクがあります。
また監査法人は、ベトナム財務省に登録された認可済み監査法人である必要があり、日本の親会社向けにJGAAPやIFRSへの調整を同時に依頼するケースも多く見られます。
監査対象は財務諸表だけでなく、内部統制や税務処理の適正性も含まれるため、企業は日常の記帳や証憑管理をVAS(ベトナム会計基準)に基づいて正確に行う必要があります。
特に、法人税や付加価値税(VAT)の計算が監査に直結するため、会計と税務の整合性を保つことが重要です。
監査報告書は英語とベトナム語で作成されるのが一般的で、外国人投資家にとっても透明性の高い制度となっています。
ベトナムの税務の概要とポイント
ベトナムの税務制度は、日本企業がベトナム進出する際に、必ず理解しておくべき重要なポイントです。
法人税、付加価値税、個人所得税、外国契約者税など、複数の税が存在し、それぞれ申告・納税方法に特徴があります。
法人税(CIT)
ベトナムの法人税(CIT)の標準税率は20%です。
特定の優遇業種または地域の場合のみ、10%などの優遇税率が適用されることもあります。※7
税務申告は年次決算終了後90日以内に行う必要があり、四半期ごとに概算での暫定納付も行います。
また、損金算入可能な経費範囲は規定が厳しく、領収書の形式や印紙税の有無など細かなルールに注意しましょう。
日本との移転価格取引がある場合は、関連者間取引の文書化義務(TPドキュメンテーション)も課されるため、国際税務の観点からも注意が必要です。
付加価値税(VAT)
付加価値税(VAT)の標準税率は10%ですが、生活必需品などには5%の軽減税率、輸出取引には0%が適用されます。※7
申告は原則として毎月行いますが、一定規模以下の企業は四半期申告が認められています。
仕入税額控除制度があるため、適切な仕入税額の管理が重要です。
輸出入企業では輸出時に0%が適用される一方、還付申請には詳細な証憑が必要で、実務では還付審査に時間を要することが多い点も留意点です。
個人所得税
ベトナムに居住する個人は、世界所得に対して累進課税(5~35%)が課されます。
非居住者については、ベトナム源泉所得に対して20%の比例税率が適用されます。※7
課税対象は給与所得のほか、家賃収入やキャピタルゲインなど幅広く、駐在員の給与設計にも直接影響します。
年間確定申告は翌年3月末までに行う必要があり、企業は源泉徴収義務者として従業員の所得税を代理納付する責任を負っています。
外国契約者税(FCT)
外国企業がベトナム国内で役務提供やロイヤリティ収入を得る場合には、外国契約者税(FCT)が適用されます。
これは法人税とVATを合わせた仕組みで、源泉徴収方式により支払側が納付義務を負います。
例えば、ライセンス料やサービス提供契約に基づく支払いには5~10%程度のFCTが課されるのが一般的です。※7
支払契約の内容に応じて税率が変動するため、契約締結時点で税務コストを見積もっておくと良いでしょう。
営業許可税(事業登録税)
ベトナムでは、企業を設立すると毎年「営業許可税(事業登録税)」を納付する義務があります。
日本の法人住民税均等割に近い性質があり、資本金規模によって税額が決まるのが特徴です。
具体的には、資本金が1,000億VND未満の企業は年額200万VND、1,000億VND以上の企業は年額300万VNDとなっています。※7
支店や駐在員事務所も課税対象に含まれ、年初に一括で納付するのが原則です。
新規設立時には設立から30日以内に申告・納付を行う必要があり、納付漏れがあると罰金や延滞税が課されるため注意しましょう。
また、政府は中小企業支援の一環として、設立から最初の1年間は営業許可税を免除する制度も導入しています。※7
申告期限および納税期限
ベトナムの税務では、税目ごとに異なる申告期限と納税期限が定められています。
法人税(CIT) | 会計年度終了後90日以内に確定申告 |
付加価値税(VAT) | 原則毎月申告 |
個人所得税(PIT) | 企業が源泉徴収し、翌月20日までに納付する |
外国契約者税(FCT) | 支払発生時に源泉徴収し、翌月末までに申告・納付する |
営業許可税(事業登録税) | 年初に一括で納付する |
期限を過ぎると延滞利息が課されるだけでなく、悪質とみなされると数百万VND単位の罰金が科される場合もあります。
ベトナム税務総局が発行する最新のガイドラインを随時確認し、申告期限と納税期限を把握しておきましょう。
税務調査
ベトナムでは、税務当局による税務調査が定期的に実施されます。
調査対象は法人税やVATだけでなく、移転価格税制や関連者間取引も重点項目です。※7
調査の頻度は企業規模や業種、過去の申告内容に応じて異なりますが、外資系企業は重点監視対象とされる傾向があります。 特に経費計上の妥当性、領収書(インボイス)の正当性、移転価格に関する文書化義務(TPドキュメンテーション)の有無が厳しくチェックされます。
外資系企業は現地の監査法人や会計事務所と連携して税務調査に対応するのが一般的です。
近年はITシステムを活用した電子申告・電子インボイスが普及しており、当局はデータ分析を通じてリスクの高い企業を効率的に抽出しています。※7
調査の結果、追徴課税や罰金が課されるケースも珍しくないため、事前に内部監査を行い、不備を修正しておくことが大切です。
ベトナムの会計・税務は「エスコンサルティング」にご相談ください

ベトナムに進出する企業にとって、会計・税務は日本とは大きく異なるため、専門的なサポートが不可欠です。
例えば、法人税の優遇制度が複雑に存在していたり、付加価値税(VAT)も還付申請の手続きに時間を要するなど、実務上の注意点が多くあります。
また、外国契約者税(FCT)や個人所得税(PIT)など、外資系企業ならではの課題も少なくありません。
さらに、ベトナム会計基準(VAS)はIFRSを参考にしているものの、減損会計の未整備や独自の勘定科目体系など、日本企業にとって分かりづらい部分もあります。
こうした制度の違いに対応し、適切な申告や税務調査への備えを行うには、現地実務に精通した専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
エスコンサルティングは、ベトナムの最新法令や税制改正を踏まえた実務支援を行い、企業が安心して現地事業を展開できるようサポートいたします。
ベトナム進出をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
※1 独立行政法人 国際協力機構 (JICA) 有限責任 あずさ監査法人「ベトナム国 公正価値会計導入に向けた会計制度 情報収集・確認調査 業務完了報告書」
※2 KPMG in Vietnam「Differences between Vietnamese GAAP & IFRS」
※3 PWC「Adoption of IFRS in Vietnam」
※4 CSDLVBQPPL Bộ Tư pháp 「Accounting Law」
※5 KPMG in Vietnam 「Decree No. 174/2016/ND-CP Guidance on the Law on Accounting (2015)」
※6 Grant Thornton「Chart of Accounts」
※7 JETRO「税制 | ベトナム-アジア-国・地域別に見る」