【2025年版】ベトナムM&Aガイド|注目すべき3業界(IT・不動産・飲食)の最新動向と実務ポイント
はじめに
「ベトナムに進出したいが、どの業界に可能性があるのか分からない」「規制や現地企業との交渉が不透明でリスクが見えにくい」ーそんな声をよく耳にする。
本記事では、ベトナム進出を検討する日本の事業会社の経営層・海外事業担当者、またそれら企業を支援する金融機関・投資ファンドの方々に向けて、M&Aで注目すべきIT・不動産・飲食の3業界を取り上げ、最新の市場概況、参入メリット、実務上の留意点について解説する。
【IT業界】若手人材と税制優遇を活かせる成長領域
市場環境と背景
2023年、世界的な経済減速やウクライナ情勢により、ベトナムのIT業界輸出は前年比4.9%減少したが、日本・APAC市場向けの案件は堅調。売上高は21.1兆円を維持し、依然として同国経済をけん引する産業の一つとなっている。
Mordor Intelligence「Vietnam ICT Market Analysis | Industry Growth, Size & Forecast Report」より引用
ソフトウェア、ITサービス、パブリッククラウド関連分野は拡大が続いており、他方で半導体(47.7%)やデバイス(15.1%)といったハード領域も依然として大きなシェアを占めている。ハード・ソフトの双方でポジションが取れることが、外資企業にとっての魅力の一つといえるだろう。
Statista「Data Center - Vietnam | Statista Market Forecast」より引用
若年層中心の人材構造と制度的優位性
ベトナムのIT人材は20〜29歳が58%を占め、非常に若いことが特徴である。また大学でIT系プログラムを履修する学生は年間57,000人に達し、量的な人材供給は強みといえる。政府支援においては、IT企業に対する法人所得税(CIT)の免除(4年間、その後9年間は50%軽減)等の優遇措置もあり、成長段階にある外資系スタートアップにも適した環境である。
TOPDev「Vietnam IT Market Report 2024 – 2025 | Vietnam IT & Tech Talent Landscape」より引用
M&Aの機会と実務上の注意点
ソフトウェア・ITサービス分野においては、外資100%出資が可能で、法人税の優遇措置も適用できる可能性がある。これにより負荷を抑えつつ比較的シンプルかつスピーディーにM&Aを実行可能。
他方、実務面では英語力に課題があり、TOPDev「Vietnam IT Market Report 2024 – 2025 | Vietnam IT & Tech Talent Landscape」によれば、ベトナムのIT人材のうち英語に流暢な人材は全体の5%程度と推定されている。加えて、一貫性のないITトレーニングやライセンス不要のソフトウェア利用がサイバーセキュリティリスクにつながる可能性もあり、M&Aに際して、人材の実践能力や開発体制の調査が重要であると考える。
【不動産業界】制度・手続きの複雑さを乗り越えた先に広がる市場
市場動向
2023年には一時的に低迷したが、ベトナム不動産業界は安定した市場と競争力のある賃料を背景に、依然として外国人投資家から注目を浴びている。オフィス不動産についても、平均賃料は上昇し、稼働率は90%を維持。
Savills Report「Ho Chi Minh City Market Belief H1/2024」より引用
またMordor Intelligenceの「Vietnam Industrial Real Estate Market Size & Share Analysis - Growth Trends & Forecasts (2025 - 2030)」によれば、2025年の不動産業界の市場規模は3.4兆円と推計され、年平均15.42%の成長率で2030年までには7.0兆円への成長が見込まれている。
その背景には住宅ローン金利の低下、都市化の加速と中間層の増加(2026年までに都市部全人口の26%に増加見込)があり、住宅・オフィス・商業施設への長期的な需要が期待されている。(VinaCapital「Economist’s Note: A Real Estate Rebound in the Making」より)
不動産業界に対する政府支援の拡大
政府は国家銀行に対して、債務繰延・債務延長、金利引下げ等の柔軟な金融政策を実施するように指示を出し、企業支援を推進している。実際に、政府は不動産業界向けに約120兆ドン(7,180億円)のクレジットパッケージを用意し(https://daibieunhandan.vn/co-hoi-va-thach-thuc-cho-thi-truong-bat-dong-san-nam-2024-post357940.html)、労働者住宅や公営住宅建設への低利融資を進めた。
法的な課題
不動産業界への投資においては、以下のような複雑な承認・法的問題がしばしばボトルネックとなる:
- 土地使用料の算定方法において法的根拠が曖昧
- 投資法と住宅法の整合性がなく、投資法の承認済プロジェクトでも、当局より「住宅用土地として承認を受けていない」として指摘を受けるケースがある
- 効力のない法根拠に基づいた計画が策定される、計画・スケジュールにのっとらずにプロジェクトが実行される、法的手続に問題が生じて5,6年プロジェクトが遅延する、といった問題もしばしば発生する
こうした制度的障壁を乗り越えるためには、初期フェーズでのローカル企業との連携が事実上不可欠である。
M&A戦略
不動産サービス業は、法令上は外資100%が可能だが、土地取得を伴う不動産開発ではローカル51%、外資49%のスキームが一般的である。外資企業にとっては難易度が高い、土地準備や建設許可はローカル企業が役割を担い、建設許可の取得以降で外資が出資する形を取ることで、法的・制度的リスクを最小化しながらプロジェクトを実施可能。
【飲食業界】ライフスタイル変化を捉える外食・デリバリーの潮流
市場の現在地
経済全体がやや軟調だった2023年も、飲食業界は11.6%成長し、売上は約3.4兆円。レストラン・カフェの店舗数も31.7万店と堅調に増加している。
Ipos.vn「Vietnam food business market 2023.」より引用
主要因の一つとして観光業の回復が挙げられるだろう。コロナ後、ベトナムの観光業界は目覚ましい回復を見せ、2023年は国内旅行者数・海外旅行者数ともに回復し、ベトナムの飲食業界の売上高増加に寄与した。
annual statistics from the Ministry of Culture, Sports and Tourism of Vietnam.より引用
(Du lịch Việt Nam và mục tiêu đón 18 triệu lượt khách quốc tế (Bài 1): Tạo động lực để "về đích")
また、経済成長に伴い1日あたりの支出額の増加がみられる。2023年には1日あたりの支出額が4,450円~10,380円の人口層が400万人にまで増加。ローカル料理から和洋中等の多様な食体験への支出が増加していることが推察される。
McKinsey Company「The new faces of the Vietnamese consumer」より引用
他方、仕事等の繁忙に伴い、外食の利用が増加。また、コロナを経て進化・普及したフードデリバリーアプリ等のデジタルサービスの存在が、消費者の食体験の質向上ならびに飲食産業の成長に寄与していることだろう。
消費者行動とマーケットトレンド
コロナを経た産業の回復、経済成長、技術革新に伴い、消費者行動やマーケットトレンドにも動きが見られる。
消費者の外食頻度は増加傾向にあり、IPOS.VN in 2023の調査によれば2023年は17.1%の消費者が毎日外食をしており、28.9%の消費者が週に3~4回は外食をしているとのことだ。
Ipos.vn「Vietnam food business market 2023.」より引用
昼食の支出額も2023年度は大幅に増加している。ライフスタイルや食習慣の変化、所得増加に伴う生活水準の向上により、特にファストフードやフードデリバリーへの支出額が増加している。
Ipos.vn「Vietnam food business market 2023.」より引用
マーケットとしては、フードデリバリーの増加が顕著である。
フードデリバリーの市場規模は約520億円まで増加。2022年は約1,223万人がオンラインプラットフォームを利用しフードデリバリーを注文、2023年には1300万人以上に利用された。繁忙で利便性を求める人々の増加、オンラインプラットフォームの進化、コロナを契機とした食習慣の変化がフードデリバリーの成長に貢献したと考えられる。
また、外食産業の市場規模もコロナ以後急速に回復し、2023年には3.1兆円にまで到達。若年層を中心に新しい食体験を求めるニーズが高まっていること、TikTok等のメディアチャンネルの発展により新しい飲食店を見つけやすくなったことが要因といえるだろう。
Ipos.vn「Vietnam food business market 2023.」より引用
ベトナム飲食業界における機会と課題
ベトナムの飲食業界は、経済成長と消費者意識の変化により、今まさに大きな転換期を迎えており、M&Aによる参入や拡大の好機が存在している。一方で、いくつかの構造的課題にも留意する必要がある。
■ 機会
観光業の回復と成長:インバウンドおよび国内旅行者の増加により、飲食サービスの提供機会が増加
Eコマースの成長:オンライン注文、宅配サービスの利用増により、業界に更なる競争と革新をもたらしている
クリーンでオーガニックな食品に対する需要の高まり:生活水準の向上により、消費者の健康と食品の品質への関心が年々向上。ニーズに合わせたサービス提供により事業成長が可能
■ 課題
経済の不安定さ:景気拡大期には外食や食品・飲料への支出が増加する一方、不況期にはその逆の傾向が顕著に現れ、業績が変動しやすい構造にある
消費習慣の急速な変化:消費者の嗜好は短期間で変化する傾向があり、それに即応できる商品・サービスの柔軟な提供体制が求められる
競争圧力の高まり:外資系を含む多くのブランドが進出し、特にブランディング、マーケティング、コミュニケーションの側面で競争が加速する可能性がある
食品安全への懸念:品質管理体制が不十分なままでは、消費者の信頼を失うリスクが高く、ブランドイメージの毀損につながる恐れがある
M&Aの特徴
飲食業界は外資100%出資が可能で、現地法人設立や既存チェーンの買収による参入も可能である。ただし、飲食事業を実施するためにはビジネスライセンスを取得する必要があり、また、IRCを有する外資企業として設立された場合に店舗の審査が厳しくなるケースも近年は増加している。そのため、進出にあたってはやや状況が複雑化しているため、事前に弊社のような専門家に相談をして頂くことが望ましい。
おわりに|ベトナムM&Aは「実務と地場対応」が鍵
IT・不動産・飲食という主要3業界におけるM&Aは、単なる財務的な投資ではなく、現地制度・文化・事業慣習との正確なすり合わせが成否を分ける。
「自社にとって最適なスキームは?」「どの業界にどう関わるべきか?」といった初期検討フェーズの段階から、契約事務やアドバイザリー、その後の管理体制構築まで、
貴社の戦略実行を支援するパートナーとして、まずはお気軽にご相談いただきたい。
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