ベトナムにおけるM&Aの手続と留意点
2025/5/5
ES CONSULTING VIETNAM CO., LTD. 高田 真
コロナ禍以降は、ベトナムにおけるM&Aが元気のない状況となっていたが、特に2024年以降は再びベトナムにおけるM&Aが活発化してきていることを実感する。ご存知の通り、ベトナム経済は著しく成長しており、日本企業が東南アジアへの進出を検討する際、ベトナムは必ずと言っていいほど候補地に挙がる。
ベトナム進出において、M&Aによって既にベトナムで一定の成果を出している企業を買収することは、ベトナムビジネスをスピーディに展開していくうえでは非常に有効だ。
しかし、ベトナムにおけるM&Aには様々なリスクも潜んでいるため、安易な意思決定は禁物である。
ここでは、ベトナムにおけるM&Aの一般的な手続きの流れと特徴について解説していく。
1.ベトナムにおけるM&Aの一般的な手続の流れ
ベトナム国外の企業(日本企業など)がベトナムローカルの企業をM&Aする際の流れは概ね以下の通りとなる。
基本的な流れは日本国内におけるM&Aと大きく異なるところはないが、「⑪ M&A承認」はローカル企業から外資企業に変化するにあたって、外資規制のチェックがかかるものであり、この点は日本国内のM&Aとは大きく異なるところといえる。
2.ベトナムM&Aの留意点
上記1.で示した通り、手続の流れに関しては日本国内におけるM&Aと大きく異なるところはないが、留意しなければならない点は数多くある。
その中でも特に留意が必要となる点について解説したい。
①外資規制
まずは、外資規制を確認することが重要である。買収対象の会社が、現在ベトナムローカル会社であれば外資規制を受けない状況で活動をしている。しかし、ベトナムローカルから外資の会社になると、外資100%では遂行できない事業やそもそも外資ではできない事業も存在するため、その点に気付かないままM&Aを進めてしまうと、買収したのに結局やりたいビジネスができないといったことになりかねないため留意が必要となる。
②二重帳簿
ベトナムのローカル企業は、管理目的用の帳簿と税務用の帳簿という2つの帳簿を有していることがほとんどである。そして、この2つの帳簿を有していることが特段悪いことだと思っていないケースも多い。
この場合、管理目的用の帳簿に基づいて、本来の会社の業績や財政状態を把握することになる。一方、税務申告は税務用の帳簿に基づいて実施されているため、本来の会社の業績や財政状態とは異なる数値に基づいて税務申告をしている状況となっている。このことが税務局から指摘された場合は大きな追徴やペナルティを課されることに繋がる。
そのため、どの程度の税務リスクがあるのかを十分に把握したうえでM&Aの意思決定をする必要がある。
③賄賂
近年は、やや取締が厳しくなったとはいえ、まだまだ賄賂の問題はM&Aの意思決定にあたってネックになることが多い。税関や税務局などの当局に対する賄賂が問題となるケースも多いが、取引先に対する賄賂もM&Aを進めるうえで深刻な懸念をもたらすケースがある。賄賂がないと立ち行かなくなるといった可能性を孕んでいる企業もあるため、M&Aにあたってはこの点も慎重に検討すべきである。二重帳簿と異なり、賄賂に関しては売手も口を閉ざすケースが多いため、我々がデューデリジェンスを実施する際にも細心の注意が必要となってくる問題である。
④資金繰り
特に設立5年以内の企業は、資金繰りに窮しているケースも多く、経営者自ら身銭を切っているケースも多い。このように資金繰りが苦しいがためにM&Aによって会社を売却したいというケースも少なくない。このようなケースで安易にM&Aの意思決定をしてしまうと、クロージング後、間もなく思わぬ増資や借入といった資金注入が必要となることもあるので、会社の借入状況や返済スケジュールに関しても注意が必要である。
⑤手許現金の多用
BS上手許現金が多額に計上されていたり、給与や取引先への支払いを銀行送金ではなく現金で取引している場合にも注意が必要である。
このような会社は、お金の流れを把握することが困難であり、帳簿上は給与や取引先への支払いとなっていても、実際には賄賂に利用されていたり、経営者にお金が流れている可能性があるため、注意が必要となる。
⑥ベトナム企業の経営
特にベトナムに進出するのが初めての企業の場合は、M&Aによってベトナム企業を買収しても、その後のベトナム企業経営のいろはが分からない状況となることが多い。
そのため、M&A後においても現経営陣に一定の協力の約束を取り付けておくことが重要となることもある。
M&A後においてもキーマンとなる経営陣には数%の持分を保有してもらって事業をサポートしてもらうケースも多い。
⑦譲渡対価の交渉の難しさ
日本国内のM&Aの場合、インカムアプローチやマーケットアプローチといったValuation手法に基づいて譲渡対価が議論されることが多い。
しかし、ベトナムのM&Aにおいては、こちらが合理的な譲渡対価の算定根拠を示したとしても、全くその算定根拠を検討することなく理不尽な金額をひたすら主張してくるケースがある。
このような場合は、結局議論にならないため、根負けしてベトナム企業の言う通りに譲渡対価が決定されてしまうケースもある。
ベトナムにおけるM&Aにおいては、上記のような留意点もあるが、成長著しい国におけるビジネスをスピーディに始めることができるといった魅力的な面もある。慎重な検討が必要である反面、ベトナムビジネスを成功に導いているM&Aも数多く存在する。
ベトナムM&Aを検討する際には、是非弊社のような専門業者にご相談頂きたい。