ベトナム進出に不可欠な『長期的視点』とは?国家戦略から紐解く事業戦略の策定

戦略策定においては、まず外部環境の理解が不可欠です。外部環境を分析する代表的な手法としてPEST分析があります。PESTとは以下の頭文字を取ったフレームワークです。

  • Politics(政治)
  • Economy(経済)
  • Society(社会)
  • Technology(技術)

本稿では特に「政治(Politics)」の観点から、ベトナムの長期的な事業環境について解説します。

1. ベトナムの政治体制と長期戦略の重要性

ベトナムは共産党一党体制のもと、国家主導で政策運営が行われる国です。そのため、ベトナム進出や現地事業展開においては、短期的な市場動向だけでなく、政府の産業政策や長期的な国家戦略を踏まえた事業設計が重要となります。代表的な長期戦略として「2045年ビジョン」があります。



2. 2045年ビジョン(国家長期戦略)

「安価な工場の国」から「イノベーションとデジタル、グリーンな先進国」への脱皮

2045年ビジョンとは、建国100周年にあたる2045年までに「高所得・先進工業国」への移行を目指す、ベトナム政府および共産党による超長期国家戦略です。

このビジョンの背景には、「中所得国の罠」を回避するという課題があります。
これは、一定の経済成長を達成した後、技術革新や産業高度化が進わず、高所得国への移行が停滞する現象を指します。

2045年ビジョンでは、従来の「安価な労働力」と「外資依存の組み立て加工」に頼るモデルから脱却し、中所得国の罠を回避するための戦略方針として、以下が掲げられています。

・デジタル化の推進(DX)

AI、IoT、電子商取引などを活用し、産業全体の生産性向上とイノベーション創出を目指す。

・産業の高度化

単純な組立加工から脱却し、設計・開発・高付加価値製造への転換を進める。電子機器、自動車、次世代エネルギーなどの7つの重点産業が対象となる。

・地場産業の育成

外資企業と国内企業の連携を強化し、サプライチェーン全体の高度化と国内産業基盤の強化を図る。

3. 持続可能性と社会構造の変化

経済成長に加え、先進国としての発展には「質の高い成長」が求められます。

・グリーン・トランスフォーメーション(GX)

脱炭素と経済成長の両立を図り、環境負荷の低い産業構造への転換を進める。

・人口動態の変化

中間層の拡大に伴い、高齢化への対応や社会保障制度の整備を重要課題として対処する。

・日越協力の深化

日本との関係は、2023年の外交関係樹立50周年を契機に、インフラ支援にとどまらず、DX・GX分野を中心とした戦略的パートナーシップへと発展している。

4. 戦略実行における課題(最大のボトルネック)

一方で、2045年ビジョンの実現に向けた実行段階では、依然として課題も存在します。ベトナム進出を検討する企業にとっては、これらが進出戦略や事業スキームの設計に影響する可能性があります。

・法制度の不透明性

法令や運用ルールが頻繁に変更されることに加え、実務上の解釈が明確でないケースも多く、企業活動における予見可能性を低下させる要因となります。

・行政実務のばらつき

中央政府レベルでは改革方針が明確である一方、現場レベルでの実行が追いつかず、手続きが煩雑で時間を要するケースも少なくありません。

・地域間の行政能力差

地域によって行政対応力、投資誘致能力、外資対応の成熟度に大きな差があり、進出先によってビジネス環境が大きく異なります。これにより、立地選定や事業スキーム設計において慎重な判断が求められます。

5. 長期的に有望な業界

2045年ビジョンの方向性を踏まえると、今後成長が期待される分野は以下の通りです。

  • デジタル関連産業(AI、IoT、Eコマースなど)
  • 高付加価値製造業(半導体、自動車、次世代エネルギー)
  • 製造業の裾野産業(サプライチェーン関連産業)
  • グリーン・テクノロジー・環境関連事業
  • ヘルスケア・高齢化対応サービス

これらの分野は、ベトナムの国家戦略・産業構造転換・社会変化と整合しており、中長期的な成長が期待される領域です。そのため、日系企業が進出・事業展開を検討する際の重点領域となるでしょう。

6. ベトナム進出における長期視点の重要性

ベトナム進出を成功させるためには、短期的な市場機会だけでなく、国家戦略や制度変化を踏まえた長期的な視点が不可欠です。特に進出初期段階では、制度理解・立地選定・事業モデル設計がその後の成否を大きく左右します。

当社では、税務・会計・労務・M&A・進出支援まで一貫したサポートを提供しております。ベトナム進出や長期的な事業戦略の立案については、ぜひ当社までお気軽にご相談ください。




本記事の内容は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する専門的な助言を意図したものではありません。本記事の内容に基づいて行われた対応の結果について、当社は責任を負いかねます。実際の手続や意思決定を行う際は、必ず最新の法令をご確認のうえで専門家へご相談ください。



参考リンク:
JETRO 『ベトナムの構造改革(前編)』(2025年9月1日)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2025/121dfd1c4e1151e1.html
JETRO 『ベトナムの構造改革(後編)』(2025年9月8 日)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2025/9f5d63913d1198d9.html