最新版|フィリピン駐在員のためのビザ手続きガイド(2025年11月時点)
ES NETWORKS PHILIPPINES INC. 後藤英樹
はじめに:なぜフィリピンのビザ手続きが重要か
フィリピンで働く日本人駐在員にとって、ビザの取得や更新は避けて通れない重要な手続きです。
実際に関与する機関も多く、手続きも煩雑であり、書類の整合性や提出順序を誤ると、審査の長期化や出国制限が発生することも珍しくありません。
さらに近年、労働省(DOLE)と入国管理局(BI)で相次いで制度改定が行われ、
ビザの申請要件はこれまでよりも厳格になっております。
本記事では、2025年11月時点の最新制度を踏まえ、新規取得から更新、帰任までの一連の流れを整理し、日本人駐在員や人事担当者が押さえるべきポイントを体系的に解説します。
第1章:フィリピンのビザ制度と関与機関
外国人がフィリピンで就労するためには、以下3つの政府機関の許可・登録が必要です。
| 機関 | 主な役割 |
|---|---|
| DOLE(労働省) | 外国人の就労許可を管轄。労働許可の発行や企業側の雇用責任を監督。 |
| BI(入国管理局) | 外国人の入国・滞在・就労ビザを管理。ビザ発給、更新、帰任時の出国許可を所管。 |
| BIR(税務署) | 納税者番号(TIN)の発行および税務登録を管轄。 |
このうち、ビザ審査の中心となるのはDOLEとBIです。
BIRは税務登録の観点で関与しますが、ビザそのものの審査機関ではありません。
ビザ関連手続きではこの3機関の承認、登録を順に経て初めて正式に就労できるという仕組みになっています。
第2章:ビザ手続きの流れと実務対応
フィリピンのビザ手続きは、次の3ステップで進みます。
2-1. 新規取得(赴任時)
2-2. 更新手続き(在任中)
2-3. 帰任・ダウングレード(帰国時)
この章では、それぞれのステップにおける流れ・必要書類・注意点を詳しく見ていきます。
2-1. 新規取得(赴任時)
手続きの流れ
新規赴任時には、次の3つの主要書類を順に取得します。
| 書類 | 管轄機関 | 内容 |
|---|---|---|
| TIN (Taxpayer Identification Number) | BIR | 納税者番号。外国駐在員も現地で給与を得る限り納税義務がある。 |
| AEP (Alien Employment Permit) | DOLE | 外国人労働許可証。外国人が国内で特定の職務に就くことを許可する証明書。 |
| 9gビザ | BI | 就労目的の在留資格。AEP取得後に申請。 |
| ACR-iカード | BI | 外国人登録証(IDカード)。9g承認後に発行。フィリピン国内での滞在、身分証明となる。 |
TIN、AEPの順に取得後、BIで9gビザを申請します。
この段階ではパスポート原本の提出が必要なため、一時的に出国できない期間が発生します。
必要に応じて「Revalidation(ビザ捺印時のフィリピン国外滞在に対する承認取得手続)」または「ACR-iカードWaiver(ACR-iカード発行手続きの後ろ倒し)」を申請することで、
出国が必要な場合にも一時的に対応が可能です。
必要書類と準備
卒業証明書(Diploma)
在籍証明書(Certificate of Employment)
戸籍謄本(婚姻者の場合)
※いずれも英語版かつアポスティーユ付き
その他
- パスポートやID用の写真
- Secretary Certificate or Employment contract for regular position
- DOLE rule under 1020 copy
- BIR Certificate of Registration
- Updated Mayors Business Permit
- SEC Certificate with Bylaws
- General Information Sheet (GIS)
- Updated Income Tax Return (ITR) with stamp received by BIR
- Identification Card(ID) of Resident Agent
実習研修プログラム(UTP):日本人1名につきフィリピン人スタッフ2名を後任候補として雇用、登録(3-2にて後述)
所要期間と注意点
主な注意点としては以下のようなものがあります。
・フィリピン人スタッフの雇用登録が前提(UTP提出が義務)
・パスポート原本提出期間中はフィリピン国外への出国不可
・書類不備があるとBI側で一発非承認(3-1にて後述)
実務アドバイス
赴任前に日本国内で公証・外務省・大使館認証等の手続きを済ませておくと、
現地手続きが大幅にスムーズになります。
2-2. 更新手続き(在任中)
タイミングと流れ
ビザは通常1年ごとの更新が必要です。
AEPの有効期限の60日前から申請可能で、3か月前から準備開始するのが理想です。
所要期間
各申請手続き中はパスポート原本をBIに預けるため、一時的に出国ができない状態となりますが、申請後にはパスポートは返却されます。
また、ビザ有効期限後に出国予定がある場合は「Grace Period(GP)」の申請が必要となります。
Grace Period(GP)の申請について
有効期間:3か月
承認までに約1.5か月
→ ビザの期限の直前にGPの申請を行うと、GPの承認が下りる前にビザの期限が切れる可能性があり、AEP更新と同時並行でGPを申請することが望ましいです。
実務アドバイス
更新直後に海外出張や一時帰国を予定している場合、
GPの発行状況と出国タイミングを事前調整しておくことが重要です。
2-3. 帰任・ダウングレード(帰国時)
帰任時の手続きの流れ
赴任期間終了後は、次の手続きによりビザを正式に終了します。
これを怠ると、会社・本人双方にペナルティが発生します。
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| AEPキャンセル | 労働許可証の取消 |
| ダウングレード(DG) | 就労ビザから観光ビザへの変更 |
| ACRキャンセル | 外国人登録証の返納 |
| ECC(Exit Clearance Certificate) | 出国許可証。 |
手続き全体で約1.5〜2か月を要します。
ダウングレードの手続き完了後は59日以内(PEZAビザまたは5年以上滞在者は15日以内(OTL))に出国しなければなりません。
ECCはBI本局にて本人が受領する必要があります。尚、上記OTLの対象の場合は空港のBIで当日に発行されます。
ペナルティのリスク
会社側:受入義務違反による制裁の可能性
本人:次回入国時のビザ発給拒否、出国許可保留など
実務アドバイス
本社人事・現地管理部と2か月以上前に帰任スケジュールを共有し、
急な帰国命令に対応できない旨を明確にしておくことが重要です。
第3章:2024〜2025年の法令改定と実務への影響
3-1. BI(入国管理局)― 「一発非承認制度(No Follow-up Policy)」
2024年に導入された「No Follow-up Policy」により、申請書類に不備がある場合は補正できず、即時不承認となります。
再申請には追加で少なくとも約2か月とUSD500前後の再申請費用が発生します。
よくある不備:
Secretary Certificateの添付漏れ
ITR(個人所得税)納付証明書の欠落
従業員数記載書類への署名忘れ
対応策:
提出前にBIに事前確認をすること。
公開されている書類はすべて準備をしておくこと。
3-2. DOLE(労働省)― 新要件の追加とUTP制度
2025年にDOLEで実施された改定は以下の通りとなります。
① 卒業証明書・在籍証明書(英語・アポスティーユ付き)の提出が義務化
英語版の各書類を準備の上、公証役場等でアポスティーユを付与することが必要となります。
フィリピンの場合、有効期限は明確にされておりませんが、一般的に発行日から少なくとも3か月間は有効です。
尚、GIS上に氏名が登録されており、役職がPresidentの場合は対象外となります。
法令改定後は、初回のビザ申請時(新規、更新)のみ必要となります。
② 実習研修プログラム(UTP)の導入
ビザを取得する外国人1名の後任として、フィリピン人2名をプログラムに記載する必要があり、実質的に外国人1名のビザ取得につき、2名のフィリピン人の雇用が必要となりました。
尚、ビザの更新のたびに提出が必要となります。
この改定により、書類準備の手間と時間が増しただけでなく、
現地法人ではローカル人材の採用・育成をビザ手続きと連動させる必要が生じています。
[免除対象]
・駐在員事務所(新規・既存に関わらず)
・GIS上のPresident、Vice President、Treasure 等
※Treasure であっても、「GMと兼務」のような場合は免除対象外
[免除対象外]
・フィリピン現地法人(新設の場合含む)
・GIS上の役職がGM、その他
第4章:まとめ ― トラブルを防ぐ3つの鉄則
書類の精度を最優先に確認する
BI改定後は、軽微な不備でも即時却下。書類の完全性が最重要です。スケジュールを確認の上、逆算して準備を進める
AEP更新・GP申請・帰任手続きは重なりやすいため、早期に着手しておくことが鍵です。社内連携を密にする
出国制限期間や帰任スケジュールを本社と共有し、計画的に進めることでリスクを防ぎます。
終わりに:当社によるビザ対応サポートについて
フィリピンでのビザ手続きは、法令そのものよりも運用実務の細部に時間と労力を要します。
各省庁の要求書類やタイミングを誤ると、思わぬ遅延や出国制限につながることも少なくありません。
当社では、こうした煩雑な手続きを円滑に進めるため、
日本人駐在員・フィリピン人スタッフ双方に対応可能なビザサポートを行っています。
当社の対応内容
業務開始時のガイダンス実施
– 日本人・フィリピン人いずれにも対応し、全体の流れや注意点を共有します。ご質問票を用いた事前確認
– 国外出国の有無や追加手続き(Grace Period, Revalidation等)の要否を把握します。お客様ごとのスケジュール・必要書類一覧の作成
– 各社固有の就労開始時期・社内承認プロセスに合わせて個別設計します。COE・UTP等の書類ひな形の提供
– 改定後の最新様式を反映したフォーマットをご用意します。月次での進捗共有
– 現地当局の審査状況・補足書類の要否を随時ご連絡します。納品時の留意事項一覧のご案内
– 次回更新・帰任時に必要となる留意点を整理してお渡しします。
これらのサポートを通じて、申請書類の不備やスケジュール遅延を防ぎ、安心して赴任・更新・帰任いただける体制を整えています。
ビザ手続きに関するご相談や、具体的な支援内容の詳細については、
ぜひお気軽にお問い合わせください。
