フィリピン進出の形態を徹底比較/現地法人・支店・駐在員事務所の違いと最適な選び方【実務目線】

フィリピン進出を検討する企業にとって、
最初にして最も重要な意思決定の一つが「どの形態で進出するか」です。

この選択を誤ると、

  • 想定していた事業活動ができない

  • 本社が想定外の法的・税務リスクを負う

  • 後から進出形態を変更できず、再設立が必要になる

といった問題が、実務上、実際に発生します

本記事では、フィリピン進出支援の現場で頻出する論点を踏まえ、

  • フィリピンにおける主要な進出形態の違い

  • 各形態のメリット・デメリット

  • 実務上「どの企業がどれを選ぶべきか」

  • よくある誤解・失敗例

を整理し、自社にとって合理的な進出形態を判断できる状態になることを目的に解説します。

フィリピン進出で最初に整理すべき3つの判断軸

進出形態の検討に入る前に、以下の3点を整理することが不可欠です。

① フィリピン国内で所得を得る事業活動を行うか

  • 行う → 現地法人 / 支店 / JV

  • 行わない → 駐在員事務所(Representative Office)

② 外資規制の対象業種か

  • 外資100%が可能か

  • 40%規制等(FINL対象業種)に該当するか

③ 本社はどこまでリスクを負えるか

  • フィリピン法人で責任を切りたいか

  • 本社が直接事業責任を負っても問題ないか

この3点を整理すると、選択肢は自然に絞られます。

【一覧】フィリピンの主要な進出形態(実務で使われるもの)

企業がフィリピン進出時に実務上検討する主な進出形態は以下のとおりです。

  • Domestic Corporation(現地法人)

  • Branch(外国会社の支店)

  • Representative Office(駐在員事務所)

  • Joint Venture(合弁会社)

現地法人:Domestic Corporation

最も一般的で、事業自由度が高い進出形態

主な特徴

  • フィリピン法に基づく独立した法人格

  • 外資100%所有も可能(業種依存)

  • PEZA / BOI登録が可能

向いている企業

  • 中長期での事業展開を想定している

  • 将来的な増資・投資受入を視野に入れている

  • 本社リスクを限定したい

メリット

  • 事業活動の制限が少ない

  • 株主責任は出資額までに限定される

  • ガバナンス・資本政策を設計しやすい

デメリット

  • 最低資本金要件が重くなるケースがある

支店:Branch

本社が直接、フィリピン事業の責任を負う形態

主な特徴

  • フィリピンで独立した法人格を持たない

  • 本社が事業上の法的責任を負う

  • 事業活動が可能

  • 利益送金時に15%のBranch Profit Remittance Tax(BPRT)

向いている企業

  • 本社主導で事業を厳格にコントロールしたい

  • フィリピン事業のリスクを十分に把握している場合

  • 現地法人同様の活動を行いたい場合

重要な注意点

  • 現地法人への形態変更は不可

  • フィリピンの事業リスクをフィリピン国内に限定できない

  • 本国会社の資料の提出を当局に求められ、手続きが煩雑である

  • ネガティブリストに該当する規制業種においては、支店の設立は認められない

駐在員事務所:Representative Office

市場調査・連絡業務に限定される形態

主な特徴

  • フィリピン国内で所得を得る事業活動を行うことができない

  • 親会社からUSD 30,000以上の送金義務あり

  • 市場調査、マーケティング、連絡業務に限定

注意点

  • 契約の締結主体にはなれない

  • 設立の難易度、要する期間は現地法人、支店と同様

  • 支店同様、駐在員事務所から現地法人への切り替えは不可

Joint Venture(JV)

外資規制業種で選択される協業スキーム

主な特徴

  • フィリピン企業との共同事業

  • 外資比率規制(例:40%制限)への対応

実務上の注意点
JVは「規制回避」のための手段ではなく、
法令遵守を前提とした事業スキームです。

パートナー選定、ガバナンス設計、Exit条項の設計が
事業成否を大きく左右します。

その他の進出形態(実務上は限定的)

One Person Corporation(OPC)

OPCは株主1名で設立可能な進出形態ですが、
中長期的な進出形態として選択されるケースは限定的かつ稀なケースです。

  • ガバナンスが簡素となるため、本社内部統制と相性が悪い

  • 事業拡大時に通常の現地法人へ移行せざるを得ない

  • 取引先・金融機関からの信用面で不利になることがある

このため、
「最初から通常の現地法人で設立する方が合理的」
と判断されることが一般的です。

進出形態の選び方|目的別まとめ

  • 通常の営利事業
    → 現地法人(Domestic Corporation)

  • 本社主導・責任集中
    → 支店(Branch)

  • 市場調査・準備段階
    → 駐在員事務所(Representative Office)

  • 外資規制対象業種
    → 合弁会社(Joint Venture)
    ※外資規制(FINL)については別記事で詳しく解説

フィリピン進出形態に関するよくある誤解

  • 駐在員事務所で売上計上が可能だと思っている

  • JVを作れば外資規制を回避できると誤解している

  • Branchの本社リスクを過小評価している

よくある質問(FAQ)

Q. フィリピン進出後に進出形態を変更できますか?
A. 原則として困難で、再設立が必要になるケースが多いです。

Q. 外資100%で設立して本当に問題ありませんか?
A. 業種ごとに外資規制(FINL)の確認が必須です。

Q. 最低資本金はいくら必要ですか?
A. 業種・進出形態・外資比率によって異なります。

まとめ

フィリピンにおける進出形態の選択は、
事業内容・外資規制・本社リスクを踏まえた初期判断が極めて重要です。

設立後に変更が難しいからこそ、
進出初期の段階での検討が、後の事業成否を左右します。

設立手続、外資規制、PEZA / BOIなどの制度については、
別記事で詳しく解説します。

進出形態の検討やスキーム設計についての
個別相談も可能です。お気軽にお問い合わせください。


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