フィリピン法人設立(会社設立)の流れと手続き|進出前に押さえる実務上の注意点
フィリピン進出を検討する企業にとって、
法人設立は避けて通れない重要なプロセスです。
もっとも、法人設立は進出の出発点ではなく、進出計画の一工程に過ぎません。
事業内容や外資規制、ガバナンス方針が固まらないまま手続に着手すると、
設立が長期化したり、設立後に修正が困難な問題が生じるケースも見られます。
本記事では、フィリピン進出全体の流れの中で法人設立を位置づけたうえで、
外資系企業が一般的に採用する現地法人を前提に、法人設立の流れと実務上の注意点を解説します。
フィリピン進出の全体像と法人設立の位置づけ
フィリピン進出は、概ね以下の流れで進みます。
1. 事業内容・進出目的の整理
2. 外資規制・業種制限の確認
3. 進出形態・資本金・役員体制の検討
4. 法人設立手続(SEC/LGU/BIR 等)
5. 設立後の税務・労務・コンプライアンス対応
6. 本格的な事業開始
法人設立フェーズは4に位置しますが、1〜3の判断内容が不十分なまま4に進むと、
設立手続の途中で方針変更が生じ、結果的に時間とコストが増えることがあります。
法人設立前に必ず検討すべき事項
法人設立に着手する前に、以下の点は最低限整理しておく必要があります。
事業内容(国内向けか、輸出主体か)
外資比率および外資規制の有無
進出形態(現地法人、支店、駐在員事務所、ジョイントベンチャー等)
資本金額(業種・外資比率に応じた要件)
役員・オフィサー体制(居住要件の有無)
オフィス所在地(後続のLGU手続に影響)
これらを曖昧にしたまま手続を開始すると、書類の再作成や当局対応のやり直しが発生しやすくなります。
フィリピン法人設立に要する期間の目安
一般的な 現地法人 の場合、
手続開始から営業開始可能となるまで
約6〜8か月程度
を要するのが一般的です。
これは、複数の行政機関(SEC、LGU、BIR 等)で順次・並行して審査や登録が行われるため
であり、書類不備や追加確認が生じると、さらに時間を要することもあります。
なお、PEZA登録企業の場合は、SEC設立後にPEZAでの審査・承認プロセスが加わるため、
8か月以上を見込むのが通常です。
フィリピン法人設立の一般的な流れ
設立手続は、大きく以下の4つのフェーズで進行します。
フェーズ1:SEC(証券取引委員会)への法人登録
(目安:最初の1〜3か月目)
このフェーズでは、証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)への登録を経て、会社としての法人格を取得します。
主な手続内容は以下のとおりです。
会社名の決定・予約
定款(Articles of Incorporation)および付属定款(By-Laws)の作成
発起人、役員の決定
発起人のTIN(納税者番号)取得
資本金の払い込み
SECへの書類提出および承認取得
SECの承認をもって法人格が発生しますが、承認後30日以内に追加書類の提出が求められる点には注意が必要です。
フェーズ2:地方自治体(LGU)での営業許可取得
(目安:3〜4か月目)
法人格を取得しても、地方自治体からの営業許可がなければ事業活動はできず、
地方自治体(LGU:Local Government Unit)での営業許可の取得が必要となります。
オフィス所在地を管轄する自治体で、以下の手続きを行います。
バランガイ・クリアランスの取得
ロケーショナル・クリアランスの取得
営業許可証(Mayor’s Permit / Business Permit)の取得
営業許可証は毎年更新が必要であり、更新時には地方税(Local Business Tax)の納付が伴います。
フェーズ3:BIR(内国歳入庁)への税務登録
(目安:4〜5か月目)
SECで「法人格」を得て、LGUで「場所」の許可を得た後、BIRで「納税者」としての登録を行います。このフェーズが完了して初めて、
請求書の発行や契約締結など、実質的な事業開始が可能となります。
主な手続は以下のとおりです。
税務登録証(COR:Certificate of Registration)の取得
会計帳簿の登録
公式請求書・領収書の発行許可(Authority to Print)
BIR登録前に取引を開始すると、税務上の問題となる可能性があるため注意が必要です。
フェーズ4:労務・社会保険関係機関への登録
(目安:6~7か月目)
従業員を雇用する場合、以下の登録が必要となります。
DOLE(Department of labor and Employment:労働雇用省)
労働条件・就業規則等の届出を行う機関SSS(Social Security System:社会保険制度)
民間企業の従業員を対象とする年金・社会保険制度PhilHealth(Philippine Health Insurance Corp.: 健康保険)
公的医療保険制度HDMF(Home Development Mutual Fund:通称 Pag-IBIG基金)
住宅取得等を目的とした積立基金
これらは設立直後に必須というわけではありませんが、
雇用開始前には必ず対応が必要です。
PEZA登録を予定している場合の注意点
PEZA(Philippine Economic Zone Authority)への登録を予定している企業の場合、本記事で解説した Non-PEZA企業の設立フローに加え、PEZA独自の審査・承認プロセスが必要となります。
一般的には、
SECでの法人設立後
PEZAへの申請・Board承認
条件付き登録(Pre-Registration)
本登録(Registration Agreement締結)
といったステップを経るため、営業開始までに要する期間はNon-PEZA企業よりも長くなるのが通常です。
また、PEZA登録にあたっては、
輸出比率要件
事業内容の適合性
投資額・雇用計画
専用立地(PEZAゾーン内)
など、設立前に検討すべき前提条件も多く存在します。
このため、PEZA登録を前提とする場合は、法人設立と並行してPEZA適格性の検討を行うことが重要です。
※PEZA制度の詳細や登録プロセスについては、別記事で詳しく解説します。
役員・オフィサー体制に関する注意点
フィリピン法人では、以下の主要オフィサーを任命する必要があります。
取締役(Director)
- 会社の意思決定機関。通常2〜15名。社長(President)
- 取締役の中から選任され、会社を代表する。秘書役(Corporate Secretary)
- フィリピン国籍かつ居住者であること。
- 取締役会・株主総会の記録管理などを担う。財務役(Treasurer)
- フィリピン居住者であること。
- 資金管理および資本金払込の宣誓等を行う。
特に、秘書役および財務役の要件は、海外本社を持つ企業が見落としやすいポイントです。
外資規制の考え方
フィリピンでは、事業内容によって外資参入が制限または禁止されている分野が存在します。
これらは、いわゆる「外資ネガティブリスト(FINL)」に基づくもので、
法人設立手続に入る前に、自社の事業が規制対象となるかを確認しておくことが重要です。
外資規制の有無は、進出形態の選択や資本金要件に影響するため、設立手続の途中で初めて問題になると、手続のやり直しや設計変更が必要となる場合があります。
なお、外資規制の具体的な内容や判断方法については、別記事で詳しく解説します。
設立後に必要となる主なコンプライアンス
法人設立後は、以下の対応が継続的に求められます。
年次営業許可証の更新
GIS(General Information Sheet)の提出
年次監査対応
月次・四半期の税務申告
フィリピン法人設立でよくある誤解
SEC設立後すぐに営業できると考えてしまう
BIR登録前に請求書を発行できると誤解する
資本金要件を一律で捉えてしまう
設立後の継続的なコンプライアンス対応を軽視する
これらの誤解は、制度や手続を部分的に理解したまま進めてしまうことで
生じやすいものです。
フィリピンでの法人設立や進出スキームは、事業内容、外資規制、税務、労務などが
複雑に関係するため、公的な情報等を踏まえつつ要件を十分に確認したうえで、適切な専門家の助言を得ながら進めることが重要です。
まとめ
フィリピン進出における法人設立は、単なる行政手続ではなく、進出戦略の一部です。
設立フェーズだけでなく、事前検討および設立後の運営までを見据えて進めることで、
結果的に時間・コスト・リスクを抑えることにつながります。進出形態の選択、外資規制の整理、設立スケジュールの検討など、初期段階での判断は、その後の手続や運営に大きく影響します。
進出形態の検討や法人設立に関する実務上の論点について、個別の状況を踏まえた整理や確認が必要な場合には、ぜひ私たちにご相談ください。
