フィリピン撤退手続き|会社清算(法人清算)ガイド:手続きの流れ・期間・注意点
フィリピンでの事業撤退や法人の清算(解散・清算手続き)は、進出時と同等、場合によってはそれ以上の労力を要することがあります。理由はシンプルで、関係当局が多岐にわたり、しかも「税務クリアランス(BIR Tax Clearance)」取得がボトルネックになりやすいからです。実務上、開始から完了まで2〜4年かかるケースも珍しくありません。
本記事では、フィリピンにおける会社清算(フィリピン 会社清算/フィリピン 法人 解散)の全体像を、実務の流れに沿って詳しく整理します。特に、撤退実務で多くの企業が時間を取られるBIR Tax Clearanceとフィリピン 税務監査の論点、そして「どこで手続きが止まりやすいか」を中心に解説します。
目次
1. フィリピン会社清算とは(全体像と難易度)
2. 清算方法の選択肢
3. 清算手続きの全体フロー(詳細解説)
4. 清算にかかる期間
5. 発生する主な費用
6. BIR手続きにおける実務上の注意点
7. 清算を円滑に進めるためのポイント
8. まとめ:清算は“フロー理解”と“BIR対策”がすべて
フィリピン会社清算とは(全体像と難易度)
フィリピン法人の清算は、複数の行政手続きが連動する“長距離走”です。大まかには、
従業員の解雇・退職金(セパレーションペイ)対応
地方自治体(LGU)の許認可(Business Permit 等)抹消
社会保険(SSS / PhilHealth / HDMF)の登録抹消
内国歳入庁(BIR)の税務手続きとTax Clearance取得
証券取引委員会(SEC)での最終的な解散(SEC Dissolution)承認
残余資産分配・送金、銀行口座の閉鎖
といった工程を踏むことになります。
清算が長期化しやすい最大要因はBIR
実務上よく言われるのが、「清算=BIR手続き」という見方です。多くのケースでBIRは清算の過程で税務監査(調査)を行い、BIR Tax Clearanceを出すまでに時間がかかります。ここが完了しない限り、最終的にSECで清算をクローズできない(または進めにくい)局面が出てきます。
清算方法の選択肢
フィリピンの法人清算には、大きく分けて次の2つのアプローチがあります。どちらが適切かは、会社の状況(過去の税務コンプライアンス、帳簿の整備状況、取引の複雑さ等)によって変わります。
通常の清算(Usual Dissolution)
一般的なイメージに近いのが通常の清算です。各種の抹消・清算作業を進めたうえで、最終フェーズでSECに解散・清算の申請を行い、Certificate of Dissolution(清算承認)を受領して完了に向かいます。
SECへの手続きが最終段階で実施される
税務調査の際には通常の存続会社として扱われ、BIRの税務クリアランス取得が長期化する傾向にある
関係当局への対応を広く並行管理する必要がある
新聞公告が必要となる
存続期間の短縮(Shortening of Existing Period)
もう一つが、定款(Articles of Incorporation)上の存続期間を短縮することで、会社を“自然死”に近い形で終了に向かわせるアプローチです。実務上は、初期段階でSEC手続きが関わるため、プロセス設計が通常清算と変わります。
この手法が注目される理由として、一般に次のような点が挙げられます。
SEC手続きを初期に置くため、後続の整理が進めやすい設計になり得る
会社の存続期間を短く設定することで、税務調査の対象期間や調査項目が限定される可能性がある
(清算日は税務調査の前に設定される)新聞における告知が不要
結果として、清算期間の短縮につながることがある
ただし、実際にどの程度メリットが出るかはケース次第です。通常清算よりも手続き設計が特殊であり、税務コンプライアンス状況や書類の整備状況によっては、期待したほど短縮できない場合もあり、「形式上の手段」と「実務上の効果」を切り分けて検討するのが現実的です。
清算手続きの全体フロー(詳細解説)
ここでは、フィリピン 撤退手続きの中核となる会社清算の流れを、実務に沿ってSTEPで解説します。重要なのは、順番を間違えると後工程で詰まることがある点です。「どこで止まりやすいか」もあわせて押さえてください。
STEP0:清算方針の決定(どちらの清算方法を採用するか)
通常清算(Usual Dissolution)か
存続期間短縮(Shortening / Natural Death)か
→ SEC手続きのタイミングと、税務調査の組み立てが変わります。
STEP1:事前準備・従業員解雇
清算決議(取締役会/株主総会)
清算を進めるための意思決定として、取締役会(Board of Directors)および株主総会で清算を決議します。ここで清算方針、清算担当者(Liquidator相当の役割を担う者)や、外部専門家の関与範囲を明確にしておくと、後段の混乱を減らせます。
従業員の解雇:実務上の重要ポイント
フィリピンの清算で特に注意したいのが、従業員の解雇(終了)を「清算決議の前に」実施する必要がある点です。実務の運用やケースにより扱いが変わることもありますが、少なくとも一般的な整理としては、
労働省(DOLE)および従業員への通知は30日前までに実施
解雇の進め方(通知、説明、計算根拠の提示、合意形成)で紛争化リスクが変わる
後工程(各当局の抹消手続き、社会保険停止、税務)に影響する
という位置づけになります。
セパレーションペイ(退職金・解雇手当)
解雇に伴い、勤続年数等に応じた解雇手当を算出・支給します。一般的な説明として「1ヶ月につき0.5〜1ヶ月分」などの目安が語られることがありますが、実際は雇用契約、会社規程、労働法の解釈、過去の運用等が絡むため、計算根拠を明確にしておくことが重要です。
止まりやすいポイント
解雇通知のタイミングが遅れ、後工程のスケジュールがずれる
計算根拠が曖昧で、従業員側と争いになりDOLE対応が長引く
退職金支払いの原資を確保せず進め、資金繰りが詰まる
STEP2:外部告知(新聞公告)
新聞社での公告(新聞公告)
これにより、債権者保護・対外手続きの前提を整える位置づけになることがあります
STEP3:関係機関フェーズ1(LGU / 社会保険等)
清算決議後は、なるべく早めに関係当局への抹消手続きに着手します。ここでの遅延が、BIRやSECの手続きの足かせになることがあります。
LGU(地方自治体)でのBusiness Permit抹消
フィリピンでは、営業許可(Business Permit)の管理が地方自治体(LGU)側にあります。通常は、
バランガイ(Barangay:最小行政区)
市役所(City/Municipality)
での抹消・閉鎖手続きを進めます。
止まりやすいポイント
未納のローカル税・手数料が見つかり、精算が必要になる
申請書類(賃貸契約、閉鎖証明、決議書など)の整合が取れず差戻しが発生
担当窓口が分散し、手続きの“詰め”が遅れる
社会保険(SSS / PhilHealth / HDMF)の登録抹消
従業員関連の登録抹消として、社会保険機関への手続きが必要になります。
SSS(Social Security System)
PhilHealth
HDMF(Pag-IBIG Fund)
止まりやすいポイント
過去の未納・過少申告が見つかり、精算が必要になる
退職処理と登録抹消の整合が取れず、追加書類を求められる
STEP4:BIR手続き
フィリピン会社清算の最大の難所がここです。BIRのTax Clearanceを取得できないと、清算が“終わらない”状態が続きやすく、結果として会社維持費(会計・監査・賃料等)が積み上がります。
BIR Tax Clearanceとは
清算・閉鎖に際して、「税務上の未了がない(または清算済みである)」ことを示すクリアランスを取得するプロセスです。実務上、この過程で税務監査が行われることが多く、ここに時間がかかります。
税務監査の対象期間
一般的な目安として、過去3年度分程度の税務監査が行われることが多いと言われます(ただしケースにより変動します)。
所要期間:2〜3年かかることも
このBIRの監査〜クリアランス取得には、実務上2〜3年を要するケースがあります。清算が2〜4年かかると言われる背景の中心が、このBIRプロセスです。
追徴課税・ペナルティが発生しやすい
監査の結果、追徴課税やペナルティが発生するケースは少なくありません。なぜなら、フィリピンでは申告・納付の形が多岐にわたり、源泉税やVATなど論点が広いからです。
TINの取消
BIR手続きが完了すると、納税者識別番号(TIN)の取消(閉鎖)へ進む流れになります。TINがクローズしないと“税務上は終わっていない”扱いになり得るため、最後まで追い切る必要があります。
止まりやすいポイント
帳簿・証憑の不足(特に過年度)で監査が長引く
担当官から追加資料要求が繰り返される
申告書や添付資料の整合が取れず差戻しが続く
VAT・源泉税の論点が多く、指摘事項が膨らむ
追徴課税の金額確定・ペナルティ調整に時間がかかる
STEP5:SEC最終申請(SEC Dissolution)
BIRのクリアランス取得後(または取得の見通しが立った段階で)、SECへ最終的な清算申請を行い、Certificate of Dissolutionを受領します。これが、会社としての終了を対外的に示す重要なマイルストーンになります。
止まりやすいポイント
SEC提出書類の形式不備(決議書、宣誓書、公告関連など)
BIR関連書類の不足により、SEC側で処理が進まない
清算報告書の内容に修正要求が入り再提出が発生
STEP6:残余資産分配・銀行口座閉鎖(最終工程)
残余資産の分配(送金)
債務を完済した後、残った資産を株主へ分配します。ここでの留意点は、「清算プロセス中に想定外の支出(追徴課税、追加の専門家費用等)が出る」ことがあるため、分配判断を早まらないことです。
銀行口座の閉鎖は最後に
清算の実務でありがちな失敗が、先に銀行口座を閉じてしまうことです。税務・行政手続きで追加支払いが必要になったとき、支払い手段がなくなって詰むリスクがあります。銀行口座は、すべての送金と支払いが完了した後に閉鎖するのが原則的な考え方です。
止まりやすいポイント
送金に必要な書類が揃わず、資金移動が遅れる
口座閉鎖条件(残高、署名権限、提出書類)を満たせず時間がかかる
追加税金・追加費用が発生し、分配計画が崩れる
清算にかかる期間
フィリピン 会社清算の所要期間は、手続きの開始から完了まで2〜4年が一つの目安として語られます。駐在員事務所でも、目安はおおよそ2年程度とされることがあります。もちろん、業種・規模・過去の税務状況・書類整備状況によって大きく変動します。
なぜ長期化するのか(典型パターン)
期間が延びる理由は、個別にはさまざまですが、実務上多いのは次のような要因です。
BIRの税務監査が長期化(2〜3年かかるケース)
過年度の帳簿・証憑不足で調査が進まない
VAT・源泉税など指摘事項が多岐にわたり、調整が長引く
当局側の担当者変更、追加資料要求、差戻しが繰り返される
LGUや社会保険の未納・未処理が見つかり、精算が必要になる
逆にいえば、清算を早めるうえで重要なのは、「最初の準備」で勝負がほぼ決まる、ということです。後段で帳票が出ない、過去処理が不明、となるほどBIRでの滞留リスクが高まります。
清算スケジュール(ガント:N〜N+7/四半期)
通常の清算(Usual Dissolution)
存続期間の短縮(Shortening / Natural Death)
発生する主な費用
清算では「一時費用」だけでなく、長期化に伴う「継続費用」が効いてきます。清算が1年延びるだけで、固定費が積み上がって総額が大きく変わるケースもあります。
一時費用(その場で大きく出るもの)
従業員の解雇手当(セパレーションペイ)
各役所・当局への手続き費用(申請費用、公告費用等)
税務監査の結果としての追徴課税(予測が難しい)
専門家費用(税務・法務・労務のスポット対応)
継続費用(“終わるまで”出続けるもの)
会計・監査費用(清算期間中も一定の対応が必要になりがち)
事務所賃料・保守費(物理拠点が残る場合)
会社維持のための役員(秘書役・財務役等)選任コスト
駐在員や本社担当者の進捗管理コスト(人件費・渡航費等)
継続費用は、見積もり段階で軽視されやすい一方、長期化すると「一番効いてくる」費用でもあります。清算計画では、BIRが長引いた場合の固定費シナリオも織り込んでおくのが実務的です。
BIR手続きにおける実務上の注意点
ここではBIR手続き(税務調査)への備えとして、長期化しやすい論点を整理します。なお、個別事情で取り扱いが変わることがあるため、断定ではなく“傾向”として捉えてください。
なぜBIR手続きは時間がかかるのか
BIR手続きが長期化するのは、単に手続きが遅いからではなく、次の要因が重なりやすいからです。
会社の過年度申告・納付・源泉徴収・VAT等の整合確認が広範囲
書類要求が段階的に追加されやすい(最初に全部出ない)
指摘事項が出ると、計算根拠の説明・修正申告・支払い等が連鎖する
担当官や窓口運用により、進行速度がぶれやすい
よくある論点:VAT・源泉税など
実務で頻出の論点として、次が挙げられます。
VAT(付加価値税)関連:インプット/アウトプットの整合、還付や控除の扱い
源泉税:外注費・専門家費用等の源泉の要否、税率、申告・納付タイミング
経費の証憑:正当性を示す書類の不足や形式不備
関連当局への登録情報との齟齬:LGU、社会保険、BIRの情報整合
書類不備が遅延を増幅する
BIRでの滞留は、結局「過年度を説明できない」ことがトリガーになりがちです。したがって、清算を決めた段階でやるべきことは、当局対応の前に、
過去数年分の申告書・納付記録
総勘定元帳、試算表、監査報告
主要取引の契約書・請求書・領収書
人件費・外注費など源泉税が絡む領域の証憑
を“出せる状態”にすることです。ここが整うほど、監査は短くなりやすく、追徴課税の不確実性も減らしやすくなります。
清算を円滑に進めるためのポイント
SEO特化の記事としても、ここは読者の「じゃあ何から?」に答える重要パートです。ポイントは、当局手続きに入る前の準備と、進行中の情報整理です。
事前コンプライアンスチェック(簡易DD)
清算を開始する前に、過去の申告漏れや書類不備がないか、可能な範囲で棚卸しを行います。これは税務調査でのペナルティ低減につながる可能性があります。
未提出申告がないか
納付漏れ・延滞の可能性はないか
VAT・源泉税の処理に抜けがないか
帳簿・証憑が揃っているか
“完璧なDD”でなくても、事前に地雷を踏み抜いておくことで、BIRフェーズの手戻りを減らしやすくなります。
書類整備:清算の成否はここで決まることが多い
清算の実務では、当局に提出する書類が多いだけでなく、提出後に追加要求が来るのが通常運転です。したがって、
書類の所在が分かる
いつでも提示できる
同じ資料を何度も作り直さない
という状態を作るだけでも、進行はかなり改善します。
現地専門家活用の一般的傾向
フィリピンでは、法令上・運用上の要請として、フィリピン国籍の秘書役(Corporate Secretary)や、現地居住の財務役(Treasurer)といった役割が問題になることがあります。清算を進める間、こうした要件対応や当局コミュニケーションを含めて、現地のコンサルティング会社等の支援を受けるのが一般的、という整理はできます。
ただし、SEO特化の観点では、ここで「専門家に依頼しましょう」と強く誘導するよりも、「専門家が関与しやすい領域(税務・労務・当局折衝)」を淡々と説明し、読者に判断材料を渡す書き方の方が評価されやすい傾向があります。
まとめ:清算は“フロー理解”と“BIR対策”がすべて
フィリピンの法人清算は、LGU、社会保険、BIR、SECといった複数当局にまたがる複雑なプロセスで、完了まで2〜4年要することもあります。中でも、BIR Tax Clearance取得とそれに伴うフィリピン 税務監査が最大の難所になりやすく、過去3年度分程度の監査が入り、2〜3年かかるケースもある点は押さえておくべきです。
全体としては、次の考え方が実務上は効きます。
清算前に、過年度の書類・申告・納付状況を棚卸しする
従業員解雇(DOLE通知やセパレーションペイ)を段取りよく進める
LGUや社会保険の抹消を早めに着手して詰まりを減らす
銀行口座は最後まで残し、追加支払いに備える
なお、撤退方法は会社清算だけではなく、状況によっては株式譲渡(会社売却)という選択肢が現実的になる場合もあります。事業継続性や買い手の可能性があるなら、清算とあわせて比較検討する余地があります。
撤退・会社清算の進め方でお困りの方は、お気軽に私たちへご相談ください。
これまでのフィリピン撤退・清算支援の実績を踏まえ、貴社の状況を伺いつつ、必要な手続きの整理や適切な進め方をご提案します。
