フィリピンの社会保険制度とは?SSS・PhilHealth・Pag-IBIGをわかりやすく解説
フィリピンで従業員を雇用する場合、企業は一般に SSS、PhilHealth、Pag-IBIG Fund の3制度に対応する必要があります。
これらはすべて同じ役割ではなく、SSSは生活保障、PhilHealthは医療保障、Pag-IBIG Fundは積立と住宅支援 を担っています。
そのため、フィリピンの法定制度は、日本のように「健康保険・年金」とまとめて捉えるより、役割の異なる3制度 として理解する方が実務上分かりやすいです。
本稿ではこれらの3制度の違いについて解説していきます。
目次
なぜ3制度に加入するのか
フィリピンの社会保険制度は、従業員の生活を複数の側面から支えるために分かれています。
ひとつの制度ですべてをカバーするのではなく、老後や病気、出産、失業への備えはSSS(Social Security System)、医療費はPhilHealth、将来の積立や住宅取得はPag-IBIG という形で役割分担されています。
企業側から見ると、これらは単なる法定負担ではありません。
従業員にとっては、働けなくなったときの現金給付、医療費補助、将来の住宅取得支援につながるため、雇用に伴う最低限の生活基盤を整える制度 といえます。
一方で会社にとっては、法令遵守だけでなく、現地雇用に必要な基本インフラでもあります。
3制度の違いをまず整理する
| 制度 | 制度目的 | 従業員側の主なメリット | 会社における意味 |
|---|---|---|---|
| SSS | 生活保障の基礎制度 | 傷病、出産、障害、退職、死亡、失業などの給付 | 法定の社会保険対応の中心 |
| PhilHealth | 公的医療保険 | 入院・外来時の医療費補助 | 医療保障の最低ラインを確保 |
| Pag-IBIG Fund | 強制積立・住宅支援 | 積立金の形成、住宅ローン利用等 | 福利厚生と法定積立対応 |
SSS(Social Security System)とは何か
SSSは、フィリピンの民間企業で働く人のための中核的な社会保険制度です。
SSSは、病気で働けないとき、出産時、障害が残ったとき、退職後、死亡時、失業時 などに現金給付を行う制度で、従業員の生活保障の土台になっています。
従業員にとっては、老後の年金だけでなく、病気や出産、障害、失業などに備える生活保障の基礎になります。
SSSの会社負担はどのくらいか
SSSの保険料は、合計15% (会社10%・従業員5%) です。
ただし、これは給与額そのものに一律で掛けるのではなく、SSSが定める保険料計算用の給与区分(MSC(Monthly Salary Credit)) に当てはめて計算します。
さらに、SSSには EC(Employees’ Compensation Program) という、業務に起因する病気・けが・死亡 に備える会社負担のみの制度があります。
ECは率ではなく定額で、SSS公式では次のように案内されています。
MSCが14,500ペソ以下:ECは PHP 10
MSCが15,000ペソ以上:ECは PHP 30
たとえば月額給与30,000ペソの従業員では、SSS上の会社負担の目安は PHP 3,030 です。
この金額には、会社負担10%部分に加えて、ECのPHP 30 が含まれます。
SSSで会社に求められる報告・納付義務
毎月の実務では、会社が従業員負担分を給与から控除し、会社負担分とECを加えて、SSSへ納付します。
実際の支払いは、実務上は、My.SSS Portal を使って手続を進め、支払い時には PRN(Payment Reference Number) を用いて、SSSが案内する支払チャネル経由で納付します。雇用主は拠出対象者のリストを作成し報告します。
PhilHealthとは何か
PhilHealthは、フィリピンの公的医療保険制度です。
従業員にとってのメリットは、入院や外来時の自己負担を一定程度軽減できることです。
なお、PhilHealthだけではカバーが限定的なため、実務上は PhilHealthに加えて、HMO(民間の医療補助プラン)や民間保険を付ける 企業も多く見られます。
PhilHealthの会社負担はどのくらいか
PhilHealth料率は 5.0%(会社2.5%・従業員2.5%)です。
計算の基礎となる金額は 月額の基本給(Monthly Basic Salary(MBS))であり、MBSは下限 PHP 10,000、上限 PHP 100,000 の範囲内で規定されています。
たとえばMBSが30,000ペソなら、総保険料は PHP 1,500、会社負担は PHP 750 が目安です。
PhilHealthで会社に求められる報告・納付義務
毎月の実務では、会社が従業員負担分を給与から控除し、会社負担分を加えた総額を納付します。
報告・納付は通常、EPRS(Electronic Premium Remittance System) を通じて行います。
納付期限は一律ではなく、会社ごとに付与される管理番号であるPEN(PhilHealth Employer Number)により規定され、PEN末尾0~4は翌月11日~15日、5~9は翌月16日~20日 です。
つまり会社は、従業員の直近の月額基本給に基づいて拠出額を算定し、EPRSを通じてこれを報告し、PENに対応する期限内に認定された支払いチャネルを通じて納付する義務があります。
Pag-IBIG Fundとは何か
Pag-IBIG Fundは、年金や医療保険ではなく、強制積立と住宅取得支援を組み合わせた制度 です。法律上も、労働者のための「健全な貯蓄制度」と「住宅ニーズへの備え」を目的として設計されています。
従業員にとってのメリットは、従業員と会社が毎月拠出したお金が、従業員名義の積立として蓄積され、将来的に受け取れることと、一定の加入実績を前提に住宅ローン等の制度利用につながることです。
Pag-IBIGの会社負担はどのくらいか
Pag-IBIGでは、従業員の月額給与を基準に、従業員負担が 1%または2%、会社負担が 2% を拠出します。法令上のベースはこの構造で、2024年以降は実務上の計算上限が PHP 10,000 に引き上げられています。
そのため、一般的な上限ベースでは、会社負担は PHP 200、従業員負担も PHP 200 が目安です。
Pag-IBIG Fundで会社に求められる報告・納付義務
毎月の実務では、会社が従業員負担分を給与から控除し、会社負担分を加えてPag-IBIGへ納付します。Pag-IBIGは医療保険や年金ではなく積立制度ですが、会社には従業員の積立を取りまとめて納付する役割 があり、法令上も会社負担分を従業員へ転嫁してはならないとされています。実務上、雇用主は、Pag-IBIG のオンライン機能(Electronic Submission of Remittance Schedule(eSRS)など)を通じて納付明細書を作成・提出し、それに対応する拠出金を Pag-IBIG 認定の支払チャネルを通じて納付します。
3制度を合わせた場合の会社負担額
月額給与30,000ペソの従業員を例にすると、会社側の法定負担の目安は次のとおりです。
| 制度 | 会社負担額(月額目安) |
|---|---|
| SSS(EC含む) | PHP 3,030 |
| PhilHealth | PHP 750 |
| Pag-IBIG Fund | PHP 200 |
| 合計 | PHP 3,980 |
このように、フィリピンでは給与に加えて法定福利費が発生するため、進出前の人件費試算では、基本給だけでなく法定負担も含めて予算化すること が大切です。
いつ実務対応が必要か
フィリピンの社会保険実務では、会社設立時、採用時、毎月の給与計算時、退職時 の4つが主な対応タイミングです。制度の内容だけでなく、いつ手続が必要か を押さえておくと、登録漏れや納付遅延を防ぎやすくなります。特に実務上は、「採用後30日以内に必要な手続」 と 「毎月の納付期限」 を分けて管理するのがポイントです。
| タイミング | 主な実務対応 | 補足 |
|---|---|---|
| 会社設立時・ 雇用開始前 | SSS・PhilHealth・Pag-IBIGの雇用主登録を確認 | まず会社として各制度に登録し、給与計算・納付ができる状態を整えます。 |
| 採用時 | 従業員のSSS番号、PhilHealth番号、Pag-IBIG番号の有無を確認 | 日本人駐在員の場合は、あわせて日比社会保障協定の対象かどうかも確認します。 |
| 採用後30日以内 | 各制度で必要な従業員登録・報告を行う | PhilHealthではER2、SSSでもR1Aを用いた従業員報告が重要です。Pag-IBIGで新規従業員報告は一般的に求められていませんが、送金については適切に反映されるよう対応する必要があります。 |
| 毎月の給与計算時 | SSS・PhilHealth・Pag-IBIGの保険料・拠出金を計算し、給与控除と会社負担分を反映 | 制度ごとに計算基準が異なるため、Payroll設定の見直しが重要です。 |
| 毎月の納付時 | 制度ごとの期限までに報告・納付 | 支払期限は制度ごとに異なります。たとえば、PhilHealth は各 PEN(PhilHealth Employer Number)に基づき、Pag-IBIG は会社名の頭文字に基づき、SSS の期限は雇用主の SSS 番号の末尾の数字によって決まります。 |
| 退職時 | 退職者の反映、必要な届出・最終処理を実施 | PhilHealth では、RF-1 データの反映に加えて、SSS R3 の報告および eSRS を通じた Pag-IBIG の Remittance Schedule(RS)の提出が、実務上重要です。 |
このように、フィリピンの社会保険実務は「最初に登録して終わり」ではなく、採用・毎月・退職まで継続的に対応が必要です。とくに進出初期は、制度の理解だけでなく、社内の担当者がどのタイミングで何を行うか まで整理しておくと運用が安定しやすくなります。
駐在員はどう考えるべきか
海外からの駐在人がフィリピンで働く場合は、まず 「現地採用か」「海外からの一時派遣か」 を切り分けると整理しやすくなります。
例えば、日本からフィリピンへ一時派遣する場合、派遣期間が原則5年以内であれば、日比社会保障協定により日本の年金制度に加入したまま、フィリピン側の年金部分の二重加入を回避できる可能性 があります。
ただし、この協定は主に年金部分が対象であり、PhilHealthやPag-IBIGが自動的に不要になるわけではありません。実務では、適用証明書(Certificate of Coverage) の取得と、制度ごとの要否確認が重要です。
ケース1:フィリピン現地法人でローカル採用する場合
→ 原則として、SSS・PhilHealth・Pag-IBIGの通常対応 を前提に考えます。
ケース2:日本法人からフィリピンへ一時派遣する場合
→ まず、派遣期間が原則5年以内か を確認します。5年以内であれば、日本の年金制度に残る扱いが可能か を検討し、必要に応じて適用証明書を取得します。
→ PhilHealthとPag-IBIGは別途要否確認 が必要です。
実務で押さえたいポイント
- SSS、PhilHealth、Pag-IBIGの雇用主登録が済んでいるか
- Payroll設定が最新料率・上限に合っているか
- 新規採用者の登録・報告が遅れていないか
- PhilHealthのPENベース期限を管理できているか
- Pag-IBIGの計算上限が更新されているか
- 駐在員に適用証明書が必要かを確認しているか
制度の基本を理解せずに実務だけ回すと、登録漏れや過少納付が起きやすくなります。
逆に、制度趣旨を押さえておくと、なぜその登録や納付が必要なのかを社内でも説明しやすくなります。
まとめ:フィリピン社会保険でお困りの場合は私たちへご相談ください
フィリピンの社会保険制度は、SSS、PhilHealth、Pag-IBIGの3制度がそれぞれ別の役割を持っている ことがポイントです。
SSSは生活保障、PhilHealthは医療保障、Pag-IBIGは積立と住宅支援という位置づけで、企業はこれらをまとめてではなく、制度ごとに理解し、運用する必要があります。
特に日系企業では、制度の意味を理解したうえで、法定負担の予算化、Payroll設定、駐在員の社会保障協定対応まで整理することが重要です。
フィリピン進出時の社会保険設計、Payroll運用の見直し、駐在員への協定適用判定、既存運用のセカンドチェックなどをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
