フィリピン採用に失敗しない!人事担当者・経営者が知っておくべき実務と戦略
2025/6/23
ES NETWORKS PHILIPPINES INC. 後藤英樹
採用において、「いい人材を採用できない」という課題は多くの企業が直面する問題である。
特にフィリピンなどの海外拠点では、文化や言語、候補者の志向性が異なるため、採用活動の難易度は一層高まる。給与を上げても定着せず、紹介会社を使っても的外れな人材が送られてくるなど、フィリピン独自の雇用慣習や労働市場の実態を理解しないままでは、採用の成功は望みにくい。
本記事では、フィリピンにおいて優秀な人材を採用するための戦略と実務ポイントを、実際のプロセスに沿って解説する。採用担当者のみならず、拠点長や経営者が採用の全体像を掴み、自社に合った戦略的な採用活動を実現する一助となれば幸いである。
採用の第一歩:適切な手法選びと準備の重要性
内製か?人材紹介会社か?――採用チャネルの選定基準
採用手法を検討する際、まずは「自社内で対応すべきか、人材紹介会社などの外部パートナーに依頼すべきか」の判断が必要だ。
内製の特徴
メリット:
- スケジュールや選考内容など、自由度が高い
- 採用コストを抑えやすい
デメリット:
- 担当者によって業務品質に差が出やすい
- 応募者対応やスクリーニングなど、業務負荷が大きい
人材紹介会社の活用
メリット:
- 自社でリーチできない人材層へのアクセスが可能
- 選考のプロによるスクリーニングで質が向上
デメリット:
- 費用が高くつく
- 採用戦略全体ではなく、マッチング支援にとどまる場合がある
採用代行という選択肢
内製と外注の中間的な立ち位置として、採用業務の一部または全体を代行する業者も活用できる。
メリット:
- 支援対象業務が広い
- 採用の質をより高められる
- 業務負荷の低減
デメリット:
- 費用が高い
- 企業数が少ない
- スコープや採用フローについて擦り合わせが必要
企業規模や求める人材のレベル、採用人数によって最適解は異なる。自社のリソース状況と照らし合わせた上で、最適なチャネルを選定することが重要である。
採用プロセスの全体像
フィリピンにおける採用プロセスは、「募集」「選考」「採用」の3つのフェーズに分けられる。それぞれの段階で重視すべきポイントは以下の通りである。
募集
フィリピン労働市場の構造変化:失業率の改善と外資企業の進出による雇用環境の競争激化
フィリピンの失業率は1980年以降で最低水準を記録しており、労働市場は売り手に有利な状況となっている。特に都市部では、有能な人材の確保が困難になっており、企業側の採用力がこれまで以上に問われている。
IMF:https://www.imf.org/external/datamapper/LUR@WEO/PHL?zoom=PHL&highlight=PHL
また近年、フィリピンへの外資系企業の進出が加速しており、欧米、中国、韓国、台湾といった各国の企業がフィリピン人材市場に参入している。特に欧米系企業は、給与および福利厚生において他国企業よりも高待遇を提示する傾向があり、人材獲得競争は激化の一途を辿っている。
フィリピンに進出しているBPO企業の例
PENBROTHERS:https://penbrothers.com/blog/companies-outsourcing-to-philippines/
フィリピンの労働市場は以下の3つの観点から売り手優位の構造となっており、日系企業はこの現実に即した対応を迫られている。
- 失業率の低下:安定した雇用環境により、求職者が複数企業を比較検討する余地が拡大している。
- 外資系企業の進出増加:他国企業との人材獲得競争が激化している。
- 給与水準の上昇:待遇面での優位性が求職者の意思決定に大きく影響している。
採用媒体の選定
メリット/デメリットを把握し、採用媒体を選定する必要がある。
・募集要項 / 求人掲載
人材募集では、業務内容に加え、募集の背景や目的なども明確に記載することが求められる。単に職務を列挙するのではなく、求職者にとって企業の方向性や、自身が貢献できる可能性を具体的に想起させる。
また、求職者や人材紹介ベンダーとの密な情報共有も不可欠である。フィリピンは契約主義社会であり、前提となる背景や意図の共有が不十分であると、期待する人物像とのミスマッチが生じやすい。一方、日本語はローコンテキストな言語であり、暗黙の了解や文脈に頼る傾向があるため、日系企業がフィリピンで採用活動を行う際には、前提や意図を明確に伝える姿勢が特に重要となる。
加えて、求人票は単に情報を掲載するだけでなく、いかに求職者の目に留まり、企業の魅力を訴求できるかという視点も欠かせない。待遇や業務内容だけでなく、企業の文化、ビジョン、成長機会など、求職者が「ここで働きたい」と感じられるような要素を、視覚的・言語的に工夫して伝えることが、応募率向上の鍵となる。
・質問票の例
・選考フローの確認
・組織図の確認
募集ポジションが同じであっても、組織構成によって責任範囲が大きく異なることがある。
Organizational Chart Free Template
選考
エージェントによる選考
エージェントの対応範囲や品質にはばらつきがあるため、信頼できるパートナーの選定が
重要である。加えて、人事・会計・法務など各専門家の視点からの評価も効果的である。
また、適性検査を通じたパーソナリティやIQの把握も有用。これらの情報は、予期せぬ
早期離職を防ぐための参考材料となる。
自社内での選考
自社での選考においては、以下のポイントが重要となる:
- 魅力的な待遇の提示(リモート勤務なども含めて)
- スピーディーな選考対応
- 選考フローや回数の柔軟な見直し
加えて、社内規程や選考基準を事前に整備し、関係者間で情報共有しておくことが、スムーズな選考につながる。
よくある問題とその要因
候補者側のよくある問題:
- 連絡が取れなくなる
- 面接当日に来ない
- 他社での内定が先に決まってしまう
採用側に見られる要因:
- 選考フローや回数が未確定/過多
- スケジュール調整に時間がかかる
- 他社と比較して待遇が見劣りする
- 言語面でのミスコミュニケーション
採用
オファーレター準備
オファーレターには、雇用条件、開始日、勤務地、手当などの必要事項を漏れなく記載することが基本である。
社内稟議や承認に時間を要する場合は、正式な書面提示に先立ち、内定の意思を候補者に一報する対応も有効である。これにより、候補者の離脱を防ぎやすくなる。
オファー通知 / クロージング
オファー通知時には、可能な限り対面またはオンラインでオファー面談を実施すべきである。これは条件の最終確認だけでなく、企業としての魅力を訴求し、最終的なミスマッチを防ぐためでもある。
その際、以下の2点に留意する:
- 自社の魅力をあらかじめ整理しておくこと(下図を参考に)
- 候補者の希望を事前に把握しておくこと(選考段階から情報を収集しておく)
これらを踏まえて、候補者ごとにカスタマイズした説得力あるオファー通知を行うことが、承諾率向上の鍵となる。
自社の魅力の整理(例)
まとめ
人事施策全般
- 人事は労務管理に留まらず、組織運営へ直結する領域である
- 「就社」する日本とは異なり、より戦略的・能動的な施策展開が必要
- 人事施策の効果をより上げるためには、総合的な理解・アプローチが有効
採用業務
- 近年は失業率の低下・外資競合が増加しており売手市場である
- 適切な採用方法(外注 or 内製、リファラル/SNS/エージェント等)を使い分ける必要がある
- 社内 / 社外とのスムーズな情報共有、魅力的な待遇の整備・訴求、スピーディーな選考プロセスが採用成功の鍵
採用成功を支える、信頼できるパートナーの存在
海外における採用活動は、法規制、文化、候補者特性といった複合的な要素への理解が不可欠な領域である。これらに対応しきれず、採用活動が属人的または断続的になるケースも少なくない。
そのため、以下のような支援を受けながら、採用戦略を安定的に遂行する体制を整えることが望ましい。
・現地制度や文化に精通した採用戦略設計の支援
・媒体選定・面接設計など各プロセスの改善支援
・採用後のオンボーディング・定着支援
当社は、フィリピンを中心とした海外採用支援に豊富な実績を持つコンサルティングパートナーである。企業ごとの課題に応じた最適なプランを策定し、進出前から進出後まで一貫してワンストップで支援することが可能である。
「今の採用を変えたい」「海外拠点の採用に課題を感じている」とお考えの企業担当者は、お気軽にご相談いただきたい。