ベトナム進出後に注意すべき 会計・税務バックオフィス運営の 3 つの落とし穴 ~ベトナム進出支援を行う 会計・税務コンサルの視点から~

ベトナム進出後の現地法人運営では、会計・税務・労務を含むバックオフィス管理体制の整備が重要です。本記事では、ベトナム法人設立後の日系企業が陥りやすい3つの落とし穴と対応策を解説します。

前回の記事では、ベトナム進出初期に採用すべき現地バックオフィス人材の条件について解説しました。

ベトナム法人設立後のバックオフィス運営では、次のようなお悩みをよく伺います。

  • 優秀なベトナム人スタッフを採用したはずなのに、なぜか業務がうまく回らない
  • 会計事務所に提出した証憑に抜け漏れがあり、後から税務上の課題が判明した

これらの問題は、必ずしも現地スタッフ個人の能力不足だけが原因ではありません。

実際には、ベトナム進出初期のバックオフィス運営においては、「誰を採用するか」だけでなく、「どのような仕組みで管理するか」が非常に重要です。

本記事では、ベトナム進出支援を行う会計・税務コンサルティングの立場から、ベトナム進出企業が陥りやすいバックオフィス運営上の3つの落とし穴について解説します。また、自社の管理体制を確認するための「バックオフィス管理体制診断リスト」について説明します。

落とし穴1: 「日系大企業出身の優秀なベトナム人」が機能しない

ベトナム進出初期の企業でよく見られるのが、大手日系企業での勤務経験が長く、日本語も堪能な優秀なベトナム人材を採用したにもかかわらず、期待通りに実務が回らないというケースです。

経歴に問題があるわけではありません。実際に、その方が前職で優秀な人材であった例も多くあります。

しかし、ここには「会社規模と業務範囲のギャップ」 という落とし穴があります。

前職の大手日系企業では、一般的に以下のような環境が整っている場合がほとんどです。

  • 従業員数が数百名規模
  • 総務、経理、労務、人事などの業務が分業化されている
  • 社内承認フローや業務マニュアルが整備されている
  • 日本本社からの十分なサポート体制がある

一方で、ベトナム法人設立直後や進出初期の現地法人では、状況が大きく異なります。

  • 現地スタッフは数名から数十名規模
  • 1人のバックオフィス担当者が、総務・経理・労務・銀行対応を幅広く兼務する
  • 会社の業務マニュアルや管理体制をゼロから構築する必要がある
  • 日本本社から手厚いサポートを受けられないケースもある

そのため、大企業の整った環境で力を発揮してきた人材ほど、立ち上げ期特有の柔軟な対応や、ゼロから業務を作る動きに慣れていないことがあります。

このような場合、候補者本人に能力があっても、会社が期待する役割と本人の経験範囲に大きなズレが生じることがあります。

落とし穴2: 日本人の「大丈夫」とベトナム人の「大丈夫」が生む税務リスク

ベトナム人スタッフを採用した企業において、最も注意すべきことの一つが、「任せていたので大丈夫だと思っていた」という日本人担当者側の思い込みです。

実際に、ベトナム進出企業では、後になって以下のような問題が発覚するケースがあります。

  • 契約書の原本が見当たらない
  • 必要な証憑が整理されておらず、取引の一部が適切に記帳されていない
  • VAT インボイスの発行日や内容に誤りがある

ここで重要なのは、ベトナム人担当スタッフ本人に悪意がないケースが多いという点です。

現地スタッフ本人も、次のように考えていることがあります。

「これまで問題なく業務が回っていた」

「税務局からまだ何も言われていない」

つまり、本人としては「大丈夫」と思って対応しているものの、日本本社や日本人駐在員が想定する管理水準とは大きく異なっている場合があります。

しかし、ベトナムの税務調査では、担当者に悪意があるかどうかにかかわらず、書類不備や処理誤りがあれば指摘の対象となります。

税務調査や担当者の退職をきっかけに問題が表面化した時には、数年分の仕入 VAT 控除否認、法人税上の損金不算入、追徴税、延滞税、行政罰金が重なり、会社に大きな負担が生じることがあります。

落とし穴3: 人件費を抑えるために「日本人担当者+会計事務所」で乗り切る誤算

ベトナム進出初期には、現地スタッフの採用コストやマネジメント負担を避けるため、ベトナム人バックオフィス人材を採用せず、日本人担当者と外部会計事務所だけで会計・税務業務を回そうとするケースがあります。

結論から申し上げると、この体制は一見コストを抑えられるように見えても、実務上は非効率となり、結果として税務リスクや管理上の問題が生じることがあります。

多くの会計事務所の主な役割は、お客様が整理・準備したインボイス、契約書などの資料をもとに、記帳、税務申告、給与計算を代行することです。

一方で、社内にベトナム人のバックオフィス窓口がいない場合、以下のような問題が発生しやすくなリます。

  • 社内に保存されている資料が、何のための資料か分からない
  • VAT インボイスを含む各種証憑の一次チェックが行われていない
  • 会計事務所との連絡や資料内容の確認に時間がかかる
  • 結果として、決算や税務申告の遅延などのお客様のリスクにつながる

会計事務所はあくまで外部の専門家であり、社内の総務・経理担当者の役割までを完全に代行することは難しいケースが多くあります。

特に、ベトナム現地法人の日々の取引内容、社内承認、取引先とのやり取り、資料の保管状況は、会社内部で管理すべき領域です。

社内に実務の受け皿となる窓口人材がいない状態で運用すると、会計事務所とのコミュニケーションコストが増大し、レスポンスの遅れや書類管理の不備を招く可能性があります。

最終的には、それらの問題が自社の税務リスク、決算遅延、経営判断の遅れとして会社側に跳ね返ってくることになります。

まとめ: ベトナム進出初期は「人」だけでなく「仕組み」で支えるバックオフィス体制を

ベトナム現地法人の経営者が直面する会計・税務トラブルの多くは、純粋な会計・税務知識の不足だけではありません。

むしろ、日本人駐在員とベトナム人スタッフとの認識のズレ、業務の属人化、証憑管理の不備、社内承認フローの未整備など、バックオフィス運営上の管理体制に起因しているケースが多く見られます。

ベトナム進出初期は、営業活動や事業立ち上げが優先される一方で、総務・経理・労務を中心としたバックオフィス管理体制の整備が後回しになりがちです。

しかし、担当者の退職、税務調査、不正の発覚、情報漏洩、決算遅延といった問題が発生した際には、こうした管理体制の不備が一気に顕在化し、経営上の大きなリスクにつながる可能性があります。

ベトナム進出を成功させるためには、優秀な人材を採用することだけでなく、以下のような仕組みを整えることが重要です。

当社では、日本人駐在員様と現地ベトナム人スタッフ様との円滑なコミュニケーションを支援するとともに、特定の担当者への業務の属人化を防ぎ、継続的かつ安定的に運営できるバックオフィス体制の構築をご支援しています。

その一環として、自社の管理体制を客観的に確認いただくための「バックオフィス管理体制診断リスト」をご用意しております。

本診断リストでは、ベトナム現地法人のバックオフィス運営において重要となる管理項目を、短時間で確認いただけるよう厳選しています。ご希望の企業様には、貴社の運営状況をお伺いしたうえで、無料にてご提供しております。

特に、以下のような企業様にご活用いただける内容です。

  • 経理責任者や管理担当者の退職・異動を予定している
  • ベトナム進出後間もない
  • ベトナム法人設立後の管理体制に不安がある
  • 管理体制を見直したいが、どこから着手すべきか分からない


ベトナム進出後の会計・税務・労務管理、バックオフィス体制の見直し、または現地スタッフとの実務運営にお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。




本記事の内容は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する専門的な助言を意図したものではありません。本記事の内容に基づいて行われた対応の結果について、当社は責任を負いかねます。実際の手続や意思決定を行う際は、必ず最新の法令をご確認のうえで専門家へご相談ください。