フィリピン会計・税務の基礎知識!会計基準・租税条約など分かりやすく解説

フィリピンへの進出や現地法人の運営を検討する際、会計基準や税務制度の違いに戸惑う方は少なくありません。
フィリピンでは、国際会計基準(IFRS)をベースとした会計基準が採用されており、日本の会計実務とは考え方や処理方法が異なる場面が多く見られます。また、法人税や付加価値税(VAT)、源泉所得税、日本との二国間租税条約など、税務面でも押さえておくべきポイントが多いです。

この記事では、フィリピンの会計基準の特徴や日本との主な違いをはじめ、税制の全体像や租税条約の概要について、初めての方にも分かりやすく解説します。フィリピンでの事業運営を円滑に進めるための基礎知識として、ぜひ参考にしてください。

フィリピンの会計基準

フィリピンの会計基準は、国際会計基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)をベースとしたフィリピン財務報告基準(Philippine Financial Reporting Standards:PFRS)が採用されています。(※1)そのため、会計処理の考え方や判断基準が日本会計基準(Japanese Generally Accepted Accounting Principles :J-GAAP)とは異なる場面も少なくありません。

まずは、フィリピンの会計基準の主な特徴、日本との違いを見ていきましょう。

原則主義を採用

日本の会計基準は歴史的に細則主義の色合いが比較的強く、具体的なルールや処理方法が詳細に定められているのが特徴です。

一方で、フィリピンの会計基準は「原則主義」を採用しています。(※1)

原則主義とは、細かな処理方法を一律に定めるのではなく、会計基準の目的や趣旨に照らして、実態に即した判断を行うという考え方です。

  原則主義:「基準の趣旨に照らして合理的に判断する」方式 

  細則主義:「決められた基準に当てはめて処理する」方式

そのため、取引内容や契約条件に応じて、企業ごとの判断が求められる場面が多くなります。

基準上どう考えるべきかを説明するための根拠が重視されるため、特に監査対応や本社への報告では、判断理由を明確に説明できる体制づくりを意識しましょう。

機能通貨の定めがある

フィリピン会計基準の大きな特徴の一つが、「機能通貨(Functional Currency)」の明確な定めです。

機能通貨とは、企業が主に事業活動を行う経済環境において、最も頻繁に使用する通貨を指します。
例えば、売上や仕入、給与の支払いが主にフィリピンペソで行われている場合、その企業の機能通貨はフィリピンペソと判断されます。

財務諸表は原則として機能通貨で作成されるため、親会社が日系企業の場合でも、現地法人の単体財務諸表はフィリピンペソ建てで作成されます。その後、日本本社の連結財務諸表を作成する際に、日本円へ換算する手続きが必要です。為替換算の方法や為替差損益の扱いについても影響が出るため、事前にしっかりと理解しておきましょう。

のれん償却の違い

企業買収や事業譲渡により発生する「のれん(Goodwill)」の会計処理にも、日本とフィリピンで大きな違いがあります。

日本基準では、のれんは一定期間にわたり規則的に償却するのが原則です。そのため、毎期の損益に償却費が計上されます。

一方、フィリピン会計基準では、のれんを規則的に償却することは行われません。代わりに、価値が減少していないかを確認する減損テストを定期的に実施し、回収可能価額が帳簿価額を下回る場合には、その差額を減損損失として計上します。

収益認識基準の違い

収益認識とは、「売上をいつ、いくら計上するか」を定めるルールです。フィリピンではPFRSに基づき、契約内容や履行義務の充足状況を重視して収益を認識します。商品やサービスが段階的に提供される場合には、進捗に応じて収益を分割して計上するケースもあります。

日本基準と比べて、段階損益の表示方法や損益区分の考え方が異なる場合もあるため、同じ取引でも売上計上のタイミングが変わることがあるでしょう。特に、長期契約や継続的なサービス提供を行うビジネスでは、慎重な判断が求められます。

減価償却の違い

固定資産の減価償却についても、日本とフィリピンでは考え方に違いがあります。

フィリピン会計基準では、資産の経済的耐用年数や使用状況を重視して償却方法を決定します。
そのため、日本で一般的に用いられている耐用年数と異なる設定になることも少なくありません。
また、会計上の減価償却と税務上の償却ルールが一致しないケースもあります。

会計上は費用計上できていても、税務上は損金として認められないことがあるため、税務調整が必要になるでしょう。会計と税務の差異を正しく把握し、適切に管理することが重要です。

フィリピン税務の概要

フィリピンの税制は、「内国歳入法(National Internal Revenue Code:NIRC)」を基本法として構成されています。

NIRCは日本でいう法人税法や所得税法に相当する位置づけであり、法人税、源泉所得税、付加価値税(Value Added Tax:VAT)など、主要な国税のルールが定められています。

また、NIRCを補足・具体化する形で、内国歳入庁(「Bureau of Internal Revenue:BIR)」が歳入規則(Revenue Regulations:RR)や税務通達(RMC、RMOなど)を随時公表し、実務上の運用が行われています。

ここでは、フィリピンで事業を行う際に最低限押さえておきたい税務の全体像と、実務上の重要ポイントを整理します。

二国間租税条約

フィリピンは、日本を含む多くの国と二国間租税条約を締結しています。

二国間租税条約の主な目的は、同じ所得に対して二重に課税されることを防ぎ、国境を越えた投資や事業活動を円滑にすることです。

日本とフィリピンの間にも租税条約が締結されており、これによって利子・配当・ロイヤルティなどの送金時に課される源泉税率が軽減されます。

例えば、日本・フィリピン租税条約では、一定の要件を満たす場合、以下のような軽減税率が適用されます。

利子の送金課税

10%

配当金の送金課税

出資比率が10%以上の場合

10%

出資比率が10%未満の場合

15%

ロイヤルティの送金課税

10%または15%(内容により異なる)

出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「税制」「フィリピン投資制度-「二国間租税条約」詳細

これらの軽減措置を適用するためには、所定の書類提出や手続きが必要となるため、事前に確認しておくことが重要です。

条約の適用漏れがあると、本来より高い税率で源泉徴収される可能性があります。

主な税金の種類

フィリピンで事業を行う企業は、「法人税」「源泉所得税」「VAT(付加価値税)」など、複数の税金に対応する必要があります。

法人税

フィリピンの法人税は、法人の区分によって課税対象や税率が異なります。

法人は、主に「国内法人」「居住外国法人」「非居住外国法人」の3つです。

国内法人

フィリピンで設立された法人

全世界での課税所得(総所得から許容される控除を差し引く)に対して25%の税率で課税(※2)

課税所得が500万ペソ以下、かつ総資産(事務所、工場および設備が所在する土地を除く)が1億ペソ以下の国内法人については20%の軽減税率が適用

居住外国法人

フィリピン国内に支店や事業拠点を有する外国法人

フィリピン源泉の課税所得に対してのみ、国内法人と同じ税率で課税

非居住外国法人

フィリピン国内に恒久的施設を持たない外国法人

フィリピン源泉の総所得に対して25%の税率で課税(※2)

出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「税制

また、フィリピンの税務では、最低法人所得税(MCIT)にも注意しましょう

事業開始から4期目以降、通常の法人税25%を下回る場合や赤字の場合に適用され、総所得(粗利益)の2%を課税する制度です。(※2)

課税年度は原則として暦年(12月決算)ですが、会社が定めた12ヶ月間の事業年度を採用することも可能です。

ただし、15ヶ月決算は認められていないため、決算期変更の際には注意が必要です。

申告面では、四半期申告書(BIR Form 1702Q)を各四半期末から60日以内に提出し、確定申告書(BIR Form 1702)は事業年度末から3ヶ月と15日以内に提出します。

確定申告時には、PFRSに準拠した監査済み財務諸表の添付が求められる点も、日本企業にとって重要なポイントです。

源泉所得税

フィリピンでは、支払いの内容や相手先に応じて、源泉所得税が課されます。

主な種類は、「拡大源泉税」「最終源泉税」「給与源泉税」の3つです。

種類

代表例

拡大源泉税

フィリピン国内の企業や個人に支払う報酬 など

最終源泉税

フィリピン非居住の法人や個人に支払う利息、配当金、フィリピン居住の個人に支払う利息、配当金 など

給与源泉税

従業員に支払う給与 など

出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「「その他税制」詳細

拡大源泉税は、フィリピン国内の企業や個人に対する報酬、サービス対価など、幅広い支払いに適用されます。

税率は取引内容に応じて2~15%と幅があります。

最終源泉税は、利子や配当金など特定の所得に対して課され、原則としてその源泉徴収で課税関係が完結します。

税率は、対象者居住区分によって異なります。

また、所得の種類(利子・配当・ロイヤルティ等)や取引内容でも異なるため、注意しましょう。

給与源泉税は、従業員に支払う給与に対して課され、年間課税所得に応じた累進課税(0~35%)が適用されます。

給与計算と源泉徴収の正確性は、税務調査でも重点的に確認されるポイントです。

VAT(付加価値税)

VAT(付加価値税)は、商品やサービスの販売、交換、リースなどの取引に対して課される税金で、日本の消費税に近い仕組みです。

フィリピンのVAT税率は12%※2と、日本よりも高めに設定されています。

年間総売上高が300万ペソを超える事業者は、VAT登録を行い、申告・納税義務を負います。VATは四半期ごとに申告・納税を行い、課税年度の各四半期終了から25日以内に手続きを完了する必要があります。

VATの計算や申告は実務負担が大きいため、事業規模が拡大する前に体制を整えておくことが重要です。

外資への優遇措置

フィリピンでは、外国企業の投資を促進するために、外資企業向けの税制優遇措置やインセンティブ制度が整備されています。

代表的なものとして、一定期間の法人税免除や軽減、関税・VATの免除、損失の繰越控除などが挙げられます。

これらの制度は、フィリピン投資委員会(BOI)や経済特区庁(PEZA)などの登録制度を通じて適用されるケースが一般的です。

ただし、優遇措置の内容や適用条件は、業種や投資規模、進出形態によって大きく異なります。

制度改正や運用変更が行われることも多く、過去の情報をそのまま当てはめると想定外の税負担が生じる可能性もあるでしょう。

そのため、優遇措置の活用を検討する際には、最新の制度内容を確認したうえで、税務・法務の専門家に相談しながら進めることが重要です。

税務調査

フィリピンでは、BIR(内国歳入庁)が納税状況を確認するために、税務調査(Tax Audit)を実施しています。

税務調査は、法人税やVAT、源泉所得税などを対象に行われ、申告内容や帳簿、証憑書類の整合性が細かく確認されます。特に、源泉税の処理やVATの計算は重点的にチェックされやすい項目です。日本と比べると、監査の開始時期や指摘内容が不透明に感じられることもあり、十分な事前準備が求められます。

日頃から帳簿や請求書、契約書を適切に管理し、申告内容に一貫性を持たせておくことが、税務リスクを抑えるうえで重要です。

税務調査に関する記事はこちら

フィリピン進出に向けて会計・税務の仕組みを把握しよう

フィリピンでの事業運営を成功させるためには、現地の会計基準や税務制度を正しく理解することが必要です。日本とは異なるルールや運用が多く、表面的な知識だけでは対応が難しい場面もあります。

会計・税務の仕組みを事前に把握し、必要に応じて専門家のサポートを受けながら進めることで、不要なトラブルや税務リスクを回避し、安定した事業運営につなげることができます。

フィリピン会計・税務でお困りの場合は、当社へぜひご相談ください。


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※1 独立行政法人 国際協力機構(JICA)「フィリピン国 信用リスク情報データベース 構築に係る情報収集・確認調査

※2 日本貿易振興機構(ジェトロ)「フィリピン投資制度-「二国間租税条約」詳細